高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について
2016年5月20日
高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会
超高齢社会を迎え、高齢者糖尿病は増加の一途を辿っている。高齢者には特有の問題点があり、心身機能の個人差が著しい。それに加え、高齢者糖尿病では重症低血糖を来しやすいという問題点も存在する。重症低血糖は、認知機能を障害するとともに、心血管イベントのリスクともなり得る。このような現状を背景に、2015年4月、「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」が設置された。合同委員会は、「高齢者糖尿病診療ガイドライン」の策定を目指しているが、まず高齢者糖尿病の血糖コントロール目標に関して議論を開始した。
本邦のJ-EDIT研究や、アメリカ糖尿病学会(ADA)とアメリカ老年医学会(AGS)との高齢者糖尿病に関するコンセンサスレポート、国際糖尿病連合(IDF)のManaging Older People with Type 2 Diabetes: Global Guideline、および種々の論文を参考に議論を重ね、図に示す「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を作成した。
基本的な考え方は、以下の通りである。
-
①血糖コントロール目標は患者の特徴や健康状態:年齢、認知機能、身体機能(基本的ADLや手段的ADL)、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定すること。
-
②重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うこと。
-
③高齢者ではこれらの目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性を重視した治療を行う観点から、図に示す目標値を下回る設定や上回る設定を柔軟に行うことを可能としたこと。
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)
治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。-
注1:認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、 日本老年医学会のホームページ ( http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/ ) を参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。
-
注2:高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。
-
注3:糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。 65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。
糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。
高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会
日本糖尿病学会
代表委員 | 羽田 勝計 | (旭川医科大学内科学講座 病態代謝内科学分野 客員教授) |
委員 | 稲垣 暢也 | (京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 教授) |
委員 | 鈴木 亮 | (東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 講師) |
委員 | 綿田 裕孝 | (順天堂大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授) |
日本老年医学会
代表委員 | 井藤 英喜 | (東京都健康長寿医療センター 理事長) |
委員 | 荒木 厚 | (東京都健康長寿医療センター 内科総括部長) |
委員 | 櫻井 孝 | (国立長寿医療研究センター もの忘れセンター センター長) |
委員 | 横手 幸太郎 | (千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学 教授) |
更新:2016年5月18日