1型糖尿病はどのように治療するのか?

●1型糖尿病の治療原則は強化インスリン療法です。患者さんの生活に合わせていくつかのインスリン製剤を組み合わせて使います。
●インスリン療法で気をつけたいのは低血糖です。食事ができないときや運動、病気のときなどの対応についてあらかじめ主治医と打ち合わせておくことが大事です。

(1) 治療の原則は?

A) インスリン療法

1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞がこわされ、自分でインスリンを作ることができなくなる病気です。そのため、1型糖尿病ではインスリン注射(インスリン療法)が必須です。なお、数年かけてインスリンが作られなくなる緩徐進行1型糖尿病と呼ばれるタイプではインスリン注射量が少なくてすむ場合もあります。
最近はライフスタイルに合わせたインスリン療法ができるようになりました。インスリン療法の原則は、生理的なインスリン分泌のパターンに合わせるようにインスリンを補うことです。健康な人のインスリン分泌は、食事の有無にかかわらず、24時間にわたって分泌されるインスリン(基礎分泌)と、食後の血糖値が上昇したときに合わせて分泌されるインスリン(追加分泌)からなります。インスリン療法では、多くのインスリン製剤から、各個人に合ったものを選びます。

B) 食事療法と運動療法

1型糖尿病でも食事療法と運動療法は治療の基本です。食事療法をおこなわず、過食してインスリンの注射量を増やすと体重が増え、肥満だけでなく脂質異常症や高血圧症発症の心配も出てきます。適切な食事療法、運動療法を継続するとインスリンが効きやすい体ができます。インスリン療法を適切におこなうことによって、健康な人と同じような日常生活が送れますし、糖尿病の合併症を予防し、その進行を防ぐことができます。

(2) インスリン療法はどのようにおこなうのか?

A) インスリンの種類

市販されているインスリンを図1に示します。作用時間によって、超速効型/速効型/中間型(混合製剤を含む)/配合溶解型/持効型溶解に分けられています。
わが国で市販されている主なインスリン製剤
図1:わが国で市販されている主なインスリン製剤
インスリンの効果が出始める時間、最大効果が現れる時間と平均作用時間(商品名と*、†、▲で対応)
※ 超速効型のなかでも最も速いとされているフィアスプが発売されている
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p49, 南江堂, 2020)

B) どのようなインスリンをいつ注射するのか

● インスリン製剤について
良好な血糖値を保つために、基本のインスリンの打ち方は毎食30分前から食直前に速効型あるいは超速効型を1日3回注射し、1日1回どのタイミングでも作用が平坦なインスリンである持効型溶解インスリンを1日1回注射する方法が一般的で、「強化インスリン療法」といいます。速効型インスリンは食前30分に注射します。超速効型は速効型よりも効果が速く現れ、速く消失するタイプのインスリンで、食前15分から食直前に注射します。
● 注射の方法
インスリンは皮下に注射します。注射部位は、図2に示す通りです。インスリンが吸収される速度は注射部位によって異なります。
使用中のインスリン液は室温で保存しても問題ありません。液があまり冷たいと、注射後の痛みが強いことがあります。冷蔵庫で保存する場合には、凍結させると効果が失われますので注意が必要です。また、炎天下の車中などに放置すると効果がなくなります。飛行機に乗るときには必ず手荷物として客室内に持ち込んでください。
インスリン注射の部位
図2:インスリン注射の部位
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p51, 南江堂, 2020)

C) インスリン注入ポンプを使った治療

インスリン持続注入とは、1型糖尿病の患者さんや糖尿病のある妊婦さんが厳格な血糖コントロールを保つために、注入ポンプを使って皮下から持続的にインスリンを注入するインスリンポンプ療法(「持続皮下インスリン注入療法」と呼びます)です。英語では Continuous Subcutaneous Insulin Infusion と呼び、略して「CSII」といいます。インスリンの1日の必要量の約30%を基礎分泌(「ベーサル」といいます)として持続的に補充し、食事に伴う追加分泌は毎食前に注入します(「ボーラス」といいます)。また、2010年1月に持続血糖測定(Continuous Glucose Monitoring : CGM)が、2017年9月に間欠走査型持続血糖測定(intermitted viewed CGM:i-CGM)が保険適用となり、インスリン投与量、投与方法の適切さをチェックするシステムも開発されつつあります。さらに、SAP(Sensor-Augmented Pump)療法では、患者さんの血糖値変動を観察できる機能をつけたCSIIポンプも使用可能です。SAPは現在、低血糖を予知して自動的にポンプが停止するものも使用されています。CSIIを成功させるためには、糖尿病教育が十分おこなわれていること、このシステムを支援する医療チームがあることが必要です。

D) 注意すべきこと

インスリン療法中にもっとも注意すべきことは低血糖です。逆にかぜ、発熱、胃腸炎、下痢などほかの病気にかかった場合(シックデイ)は、インスリンの作用を妨げるホルモンが分泌されるため、食事量が減っても、むしろ血糖値が高くなる場合があります。そのようなときにインスリン注射を中断したり、量を減らしたりすると、ケトアシドーシスによる昏睡が起こることがあります。とくに、SGLT2阻害薬を服用中の方やインスリンポンプを使用している方は注意してください。毎回決まったところにインスリンを注射していると注射部位の皮膚病変(皮下硬結)が生じてインスリンが効きにくくなるので同じところばかりではなく、さまざまな部位に注射するようにしましょう。

(3) 食事療法はどのようにおこなうのか?

食事療法の原則は、小児や成長期の1型糖尿病では、小児期の成長に見合う十分なエネルギー摂取が必要です。インスリン療法と食事の量や内容・タイミングがうまく合うように注意します。肥満を伴う1型糖尿病では食事制限を行って適正な体重に保つようにします。

A) 食事療法の実際

1型糖尿病の食事療法では、インスリンの種類や量を考慮して、食事の量・内容そしてタイミングと配分を主治医および栄養士とともに決めていきます。バランスのよい健康的な食習慣を続けることが重要です。
● 小児・思春期の1型糖尿病
小児・思春期には安定した血糖コントロールを維持するためにも、また小児には対応がむずかしい低血糖を避けるためにも、規則正しい3回の食事、血糖値が低下しやすい時間帯の間食など食事の配分に気をつけます。とくに体育の授業や運動部活動に参加するときには、インスリン量の調節とともに補食によって低血糖を予防することが大切です。しかし、間食や補食が必要以上に増えると、インスリン必要量が増して肥満となるので注意が必要です。健康なヒトと変わらない生活の質を維持する食事療法を目標としましょう。
● 成人の1型糖尿病
1型糖尿病ではインスリンを規則正しく注射するので、生活習慣を考慮しながら、食事量・時間をできるだけ一定にするのが望ましいです。血糖値の変動を小さくするために間食をしたほうがよい場合もあります。血糖管理のために1日の総摂取量を5~6回に分けて摂ることも必要な場合があります。運動前には運動の強さに応じて補食を摂取するとよいでしょう。しかし、低血糖を気にしすぎて、1日の総エネルギー量が増加して肥満にならないよう食事療法を考えることも大切です。

B) カーボカウント

カーボカウントとは、Carbohydrate Counting の略称です。Carbohydrate とは炭水化物のことですので、炭水化物を計算(カウント)するという意味です。食物のなかでもっとも食後血糖値に影響を与えるのが炭水化物ですので、食品中の炭水化物量を計算して糖尿病の食事管理に利用しようという考え方です。炭水化物には、血糖値に影響を与える糖質と、影響を与えない食物繊維が含まれます。カーボカウントでは糖質量に注目します。
カーボカウントには、食事療法や経口薬で治療している患者さんや一定のインスリン量で治療している患者さんが対象になる「基礎カーボカウント」と、食事前に超速効型インスリンを食事に合わせて調整している患者さんが対象になる「応用カーボカウント」があります。

(4) 運動療法はどのようにおこなうのか?

A) 運動療法の効果

運動を継続すれば、インスリンの働きが高まり、筋肉や肝臓などでブドウ糖やその他の栄養を有効に利用できるようになります。1型糖尿病はインスリンがまったく作られない状態にありますが、運動することでインスリンの働き以外により血糖値を下げることができます。さらに、運動によってインスリンの働きがよくなれば、注射するインスリンの量が増えず、肥満の予防にも役立ちます。また食後の適度の運動は血糖値の安定にも有効です。適度の運動は血液中の中性脂肪を低下させたり、HDL(善玉)コレステロールを増加させ、さらに血圧を安定させる効果があり、動脈硬化の予防に役立ちます。
また、運動することでストレスを解消し、安眠も得られます。

B) 運動療法を実施する際の注意点

1型糖尿病で空腹時血糖値が250mg/dL以上あったり、尿のケトン体が陽性である場合、強い運動をおこなうと、運動中または運動後に血糖値がより高くなる危険があります。このようなときは運動をしてはいけません。30分以上のウォーキングやジョギングなどの運動をおこなう前には、血糖測定とできれば尿ケトン体のチェックもあわせておこないましょう。
運動をすると血流がよくなり、エネルギーが多く消費されるので、低血糖に注意する必要があります。上腕部や大腿部にインスリン注射をすると、運動によりインスリンの吸収がよくなり、低血糖になる危険があります。運動時の低血糖を避けるためには、次のことに注意しましょう。
・インスリン量の調節:運動前のインスリン量を、運動量に応じていつもの1/2~3/4などに減らします。
・補食の摂取:運動量が多いときや運動時間が長い場合には、運動前あるいは運動中、運動後に補食を摂ります。
・運動のタイミング:運動をする場合は、空腹時でなく食後1~3時間の間が推奨されます。運動中に低血糖が起こった場合には、すぐにブドウ糖や砂糖水や糖分を含む清涼飲料水を飲みましょう。

(5) 療養指導のエッセンス

1型糖尿病は、小児期や思春期に発症することが多く、その治療は各年代の成長や発達、患者さんの糖尿病についての理解度に合わせておこないます。小児期では精神的に未熟であるため、十分に配慮しましょう。
より詳しい内容は、日本糖尿病学会の発行する「糖尿病治療の手びき」を参照してください。
糖尿病治療の手びき
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更新:2021年9月2日