2型糖尿病はどのように治療するのか?
●2型糖尿病の治療の基本は、食事療法と運動療法により、適正に体重をコントロールし、インスリンの効きをよくすることです。
●食事療法と運動療法で不十分な場合、経口薬や注射薬による治療をおこないます。
(1) なぜ食事療法が大切なのか
食事療法はすべての2型糖尿病の患者さんの治療の基本で、糖尿病または糖尿病の疑いがあると診断されたときから開始します。食事療法により、摂取エネルギー量が適正に保たれ体重をコントロールすると、インスリンの分泌能力や効きが改善します。このため食事療法だけで良好な糖尿病のコントロールが得られたり、経口薬や注射薬を使用している場合には薬の量を減らすことができたりします。
A) 何をどれだけ食べればよいのか
1日の身体活動に必要なエネルギー量(カロリー)を確保すると同時に、適正な体重コントロールのために過剰摂取にならないようにします。食事から摂取する1日のエネルギー量は、身長・日常の身体活動量・肥満度などをもとに計算します。詳細は主治医に確認してください。
・食事の内訳(栄養素のバランス)に関しては、この成分だけを取ればよいというものはありません。バランスのよい栄養素の摂取が大切です。
・食塩の過剰摂取は高血圧の原因になり、糖尿病の合併症に悪い影響を与えます。味付けは薄くして食塩の量を減らすことが大切です。糖尿病では、高血圧予防の観点から適正な摂取量(1日に男性は7.5g未満、女性は6.5g未満)に、高血圧を合併する患者さんでは1日に6g未満にすることを心がけましょう。
B) どう食べればよいのか
食後血糖値を上昇させないため、食物繊維に富んだ野菜を先に食べ、次におかず、最後にご飯などの炭水化物を、ゆっくりよく噛んで食べるなどの食べ方の工夫が必要です。また、朝食の欠食・遅い時間の夕食・就寝前の間食・その他の不規則な食事摂取時間などにも注意が必要です。
(2) 運動療法はどのようにおこなうのか?
A) なぜ運動がよいのか
食後に運動をすると、筋肉でブドウ糖や脂肪の利用が増加するため、食後の血糖値上昇が改善され、糖尿病のコントロールがよくなります。また、運動を続けることによってインスリンの効きがよくなって血糖値のコントロールがよくなります。さらに、中性脂肪は低下し、HDL(善玉)コレステロールは増加し、血圧の高い人では血圧も下がるなどの効果もあります。
B) 運動療法の実際
● どんな運動をおこなうのか
散歩・ジョギング・ラジオ体操・自転車エルゴメーター・水泳などゆっくりと十分に息を吸い込みながら全身の筋肉を使う運動(有酸素運動)は適しています。さらに、週に2~3回のレジスタンス運動を同時におこなうことが勧められています。レジスタンス運動とは、おもりや負荷に対しておこなう運動で、無酸素運動に属しますが、筋肉量を増加し筋力を増強する効果が期待できます。日常の座位時間が長くならないようにして、軽い運動を合間におこなうことも勧められます。
● 運動療法の注意点
運動療法をおこなううえで注意する重要なことは、低血糖です。その他の注意としては、最初は散歩など軽い運動を短時間おこなうことから始め、次第に時間を長くして、強度もやや強くします。さらに運動中のけがや事故を防ぐため、運動前後にはストレッチング、ラジオ体操などの準備運動をおこないます。運動に適した服装や靴も大切です。膝や足に負担がかからないよう靴底の厚いスポーツシューズを履いて運動をおこないましょう。
C) 運動を避けるほうがよい場合
以下のような状態では、運動がかえって体によくない場合があります。運動を始める前には、必ず主治医に相談してください。
● 血糖コントロールが悪いとき
血糖コントロールの状態が悪く、空腹時血糖値が250mg/dL以上の場合、または尿のケトン体が陽性の場合には、運動は控えましょう。
● 糖尿病の合併症が進行しているとき
i. 眼の合併症
増殖前網膜症あるいは増殖網膜症のある場合には息をこらえるような運動や体に衝撃があるような運動をおこなってはいけません。中等症以上の非増殖性網膜症でも、血圧が上がるような強い運動は避けましょう。眼科の主治医と相談してから始めてください。
ii. 腎臓の合併症
糖尿病性腎症の患者さんや透析患者さんにとっても、運動は身体機能や生活の質を向上させ有効です。しかし、血圧を高度に上げるような激しい運動は避け、有酸素運動を主体とした中等度までの運動がよいでしょう。主治医と相談してから始めてください。
iii. 神経と血管の合併症
起立性低血圧(立ちくらみ)などの自律神経障害が進んでいるとき、あるいは足の末梢神経障害や閉塞性動脈硬化症があるときは、主治医と相談してから運動をおこないましょう。
● ほかの病気があるとき
心臓や肺の病気あるいは高血圧など、他の病気がある場合には、運動療法をおこなうにあたっては必ず主治医に相談してください。
(3) 経口薬による治療はどのようにおこなうのか?
A) どのようなときに経口薬による治療が必要となるのか
食事療法と運動療法だけで2~3ヵ月続けているにもかかわらず良好な血糖コントロールが得られない場合、経口薬や注射薬による治療が必要となります。
B) 経口薬の種類
現在、日本では多くのの経口薬が使用できます。一剤だけではなく、これらの組み合わせで、多くの場合、良好な血糖コントロールが得られます。また、注射薬と併用する場合もあります。
● スルホニル尿素(SU)薬
膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを出させるように働きます。そのため、インスリンを作る能力が保たれている患者さんに有効です。スルホニル尿素薬の副作用としては、インスリン分泌を増やすので低血糖をきたす危険性や、体重が増えやすくなることがあります。
● 速効型インスリン分泌促進薬
スルホニル尿素薬と同じように膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを出させるように働きます。スルホニル尿素薬にくらべ、服用後短い時間でインスリンが分泌され、作用時間が短い点が特徴です。この薬は食事の直前に服用します。副作用としては、スルホニル尿素薬と同様に低血糖に注意します。
● α-グルコシダーゼ阻害薬
腸内で食物中の炭水化物をブドウ糖に分解する酵素の働きを抑えます。その結果、腸でのブドウ糖の吸収がゆっくりになって食後の急激な血糖値の上昇が抑えられます。このため、この薬は食直前に服用します。はじめて飲む人はしばしば、おなかの膨らんだ感じ、下痢やおならが多くなるなどの副作用を認めますが、多くの場合は服用を続けているうちに少なくなります。この薬は単独では低血糖を起こすことはまれですが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用している患者さんは低血糖になることがあります。
● ビグアナイド薬
主として肝臓から放出されるブドウ糖の量を少なくして、血糖値が高くなるのを防ぎます。体重が増えにくいという利点があります。この薬は単独では低血糖を起こす危険はほとんどありません。また、乳酸アシドーシスという意識障害を伴う副作用を起こす危険性がまれにあります。服用中に吐き気、下痢、異常なだるさなどに気がついたら、すぐに薬を中止して主治医に連絡してください。腎臓や肝臓の働きが悪い人、心不全の人、アルコールを多く飲む人は乳酸アシドーシスを起こしやすいので注意が必要です。
● チアゾリジン系薬
筋肉や肝臓などのインスリンが働く組織で、インスリンに対する効きをよくすることにより血糖値を下げます。インスリンの分泌量には影響しません。このため、単独で服用している場合には低血糖を起こす危険はほとんどありませんが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用すると低血糖が起こることがあります。主な副作用はむくみ、貧血、息切れで、ときに肝機能障害を起こす場合もあります。
● DPP-4 阻害薬
食事中の栄養素が胃から小腸に到達すると、インクレチンというホルモンが血中に分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促進します。この働きをインクレチン作用と呼びます。インクレチンは短時間で血中のDPP-4という酵素によって分解される欠点があります。DPP-4阻害薬はDPP-4の働きを抑え、インクレチンを分解されにくくします。その結果、インクレチン作用が高まって、食後のインスリンの分泌を増やし血糖値を下げます。この薬は単独では低血糖が少ないのですが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用する場合には低血糖に注意が必要です。また、最近では週に1回内服すればよい、作用時間の長い薬も発売されています。
● SGLT2 阻害薬
腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑えて、尿から糖を出すことで血糖値を下げます。体重の低下作用があり、肥満の人に向いている薬です。この薬は単独での低血糖は少ないといわれていますが、やはりスルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用する場合には低血糖に注意が必要です。
● GLP-1 受容体作動薬
インクレチンと同じ作用を示す薬です。DPP-4阻害薬とよく似た作用を示します。主な副作用としては吐き気、嘔吐、下痢、便秘の胃腸症状です。DPP-4阻害薬とは異なり体重を減量する効果が期待できます。
● 配合薬
配合薬は、上記のいずれか2種類の薬を混合して1つにした錠剤です。2つの薬をそれぞれ服用した場合にくらべて、飲む薬の種類や量が減って、飲み忘れなどが減ることが期待されます。
(4) 注射薬による治療はどのようにおこなうのか?
2型糖尿病には、経口薬の治療のほかに注射薬による治療があります。インスリンと、インクレチン作用を強めるGLP-1受容体作動薬があります。
A) インスリン注射による治療
インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きがあります。1型糖尿病の患者さんでは、糖尿病の治療薬は原則的にインスリン注射が中心です。2型糖尿病の患者さんの場合、今まで説明してきた食事療法・運動療法・経口薬で治療しても血糖コントロールが不良で、高血糖が続くときにはインスリン注射を開始します。
インスリンの自己注射は、患者さん自身が自宅でおこなうものですが、皮下注射といって、腹部などの皮下脂肪に注射をするもので、手技もむずかしくありませんし、痛みもほとんどありません。
● どんなときにインスリン注射が必要か
i. 血糖コントロールが不良なとき
食事療法や運動療法が一時的に乱れて経口薬が効かなくなった場合や、当初効いていた経口薬が長期間飲んでいるうちに徐々に効かなくなり、飲む量を増やしても血糖コントロールが不良のときには食事療法と運動療法を見直したうえでインスリンを使用します。
ii. ケトアシドーシスがあるとき
感染症や強いストレスのあったときには高血糖状態が続くことになり、その結果として意識障害を伴う糖尿病性ケトアシドーシスという重篤な状態になることがあります。糖尿病性ケトアシドーシスになったとき、またはそのような状態であることが予想されるときには、経口薬では治療できないのでインスリンを使用します。
iii. 病気になったときや手術を受けるとき
血糖コントロールがよいときでも、インフルエンザや肺炎などの急性の感染症にかかったり、大きなけがをしたり、開腹手術など大きな手術を受ける場合、副腎皮質ステロイド薬など高血糖をきたす薬を飲まなければならない場合などには、一時的にインスリン注射を必要とすることがあります。
iv. 妊娠しているとき
妊娠を希望している場合や妊娠しているときには、経口薬が胎児に及ぼす影響を考えて、インスリン注射により血糖コントロールします。妊娠を希望するときは主治医にできるだけ早く相談してください。
v. 腎臓や肝臓の働きが悪いとき
腎臓や肝臓の働きが極端に悪くなったときには、経口薬の作用時間が長くなるなどの影響が出るため、多くの場合インスリン注射に変更します。
B) GLP-1 受容体作動薬の注射による治療
GLP-1受容体作動薬は膵臓からのインスリン分泌を促進します。他の経口薬やインスリン注射と併用することもあります。食欲を抑える働きがあり、体重を低下させる作用があります。また、最近では週に1回注射すればよい、作用時間の長い薬も発売されています。
この薬は単独での低血糖は少ないといわれていますが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリンを併用する場合には低血糖が起こることがあり、注意が必要です。また、この注射薬はインスリンの代わりでありませんので、インスリンの分泌が著しく減少している人で、インスリンを中止してGLP-1受容体作動薬に治療を変更すると、ケトアシドーシスなどの重篤な副作用が起こることがあり、注意が必要です。
より詳しい内容は、日本糖尿病学会の発行する「糖尿病治療の手びき」を参照してください。
糖尿病治療の手びき
糖尿病治療の手びき
本学会では、患者さまからの個別のご質問・ご相談にはお答えすることができません。
かかりつけの医療機関へのご相談をお願いいたします。
かかりつけの医療機関へのご相談をお願いいたします。
更新:2021年9月2日