糖尿病合併症について

糖尿病には様々な合併症があります。大きく分けて、緊急治療を必要とする意識障害がおこってくるような糖尿病性昏睡(急性合併症とも言います)と、糖尿病の悪い状態が長く続くと起こってくる慢性合併症があります。それぞれの合併症について説明します。

(1) 糖尿病性昏睡とは

糖尿病の患者さんに起こる糖尿病性昏睡には、「糖尿病性ケトアシド-シス」と「高浸透圧高血糖状態」の2種類があります。どちらも生命にかかわる危険な状態です。

A) 糖尿病性ケトアシドーシスとは

インスリンが不足した状態では、脂肪の分解が高まり、最後に「ケトン体」という物質になります。このケトン体が著しく高くなり、血液が酸性に傾き、ケトアシド-シスと呼ばれる状態になります。ケトアシドーシスは1型糖尿病で主にみられ、糖尿病発症時やインスリン注射を中断したとき、あるいは感染症や外傷などによって極端にインスリンの必要性が増加したときに起こります(図1)。2型糖尿病でも同じように感染症や外傷などの強いストレスがあったとき、また清涼飲料水を多量に飲んだとき(清涼飲料水ケトーシス)などでケトアシドーシスを起こすことがあります。ケトアシドーシスでは、口渇、多飲、多尿、体重減少、全身倦怠感などの糖尿病に典型的な症状が急激に起こります。さらに悪化すると、呼吸困難、速くて深い呼吸(クスマウル大呼吸と呼びます)、あるいは悪心、嘔吐、腹痛、意識障害などが起こります。
糖尿病性ケトアシドーシス
図1:糖尿病性ケトアシドーシスはなぜ起こるのか
―1型糖尿病患者さんがインスリン注射を中止した場合
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p88, 南江堂, 2020)

B) 高浸透圧高血糖状態とは

著しい高血糖と飲水量不足によって脱水がひどくなり、血液が極端に濃縮して起こります。ただし、最低限のインスリンは分泌されていますので、ケトアシドーシスにはならないか、なっても軽いのが特徴です。高浸透圧高血糖状態は2型糖尿病の高齢者に多くみられます。感染症、脳卒中、副腎皮質ステロイド薬および利尿薬の頻用、高カロリー輸液などが原因となります。

(2) 糖尿病性昏睡はどのように治療するのか?

糖尿病性昏睡あるいはそれに近い状態では、一刻も早く入院のうえ、大量の輸液とインスリンの投与が必要です。疑わしい場合は主治医に連絡して、できるだけ早く診察を受けるようにしてください。ケトアシド-シスの治療では、輸液によって高度の脱水とショック状態を治すことと、インスリンの投与によって高血糖とケトアシドーシスを是正することが重要になります。高浸透圧高血糖状態の治療は、ケトアシド-シスの治療と基本的には同じですが、輸液による脱水の改善がもっとも重要です。

(3) 糖尿病性昏睡は予防できるのか?

A) ケトアシドーシス性昏睡の予防

ケトアシドーシスは早期に発見すれば予後は良好ですが、何よりもその発症を予防することが大切です。また、経口糖尿病薬のSGLT2阻害薬による正常血糖ケトアシド-シスがまれに認められ、注意が必要です。ケトアシドーシスは、口渇、多飲、多尿、全身倦怠感、体重減少といった典型的な症状に続いて起こります。これらの症状をよく覚えておき、症状があったときには血糖自己測定、尿ケトン体の測定をおこない、予防・早期発見することが重要です。

B) 高浸透圧高血糖状態の予防

高齢の糖尿病の患者さんは、高血糖に気がつかないうちに脱水がひどくなり、高浸透圧高血糖状態を起こすことがあります。感染症やほかの疾患を合併したときには、血糖コントロールが悪化して高浸透圧高血糖状態を起こすことがよくあるということを覚えておいてください。日頃から高血糖の症状がある場合には水分を補給して、早めに病院を受診することの必要性を家族も含めてよく確認しておきましょう。

(4) その他の急性合併症について

その他の急性合併症として、乳酸アシドーシス、低血糖性昏睡があります。乳酸アシドーシスは糖尿病治療薬:メトホルミンの重大な副作用として注意が必要です。腎障害、高齢者にはメトホルミンの使用が制限されており、ヨード造影剤の使用後には休薬を必要とします。

(5) 慢性合併症とは

糖尿病の悪い状態が長く続くと、全身にさまざまな合併症が起こる可能性が高くなります(図2)。主な慢性合併症は以下の3種類があります。
1. 糖尿病に特徴的な細小血管(細い血管)合併症:網膜症、腎定、神経障害
2. 糖尿病だけに起こるとは限らないが、糖尿病があるとより進行しやすい大血管(太い血管)合併症:動脈硬化による脳卒中、心筋梗塞や足病変
3. その他、かかりやすく治りにくい感染症や認知症など
これら合併症は糖尿病の治療をきっちりとしていれば、最小限にくい止めることができます。すでに合併症が出ていても、進行をくい止め、ほかの合併症が出ないようにするために正しい治療を続けましょう。
糖尿病の合併症は全身に出る
図2:糖尿病の合併症は全身に出る
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p25, 南江堂, 2020)

(6) 細い血管の合併症とは?

糖尿病に特有の合併症で、血糖コントロールが悪いほど、また糖尿病発症後の期間が長いほど起こりやすくなります。これら細小血管合併症は、早期で軽症であれば血糖コントロールにより改善が見込めますが、ある程度進行してしまうと血糖コントロールが良好であっても必ずしも改善しません。

A) 眼の合併症「糖尿病網膜症」とは?

網膜は眼が光を感じる主な場所であり、いわばカメラのフィルムにあたる部分です。「網膜症」ではこの網膜の血管が傷むことにより光の感知が悪くなります。進行すると眼底出血や網膜剝離(はくり)により失明することもあり、実際に成人になってからの失明原因の第3位は糖尿病です。視力低下を防ぐためには早期発見と治療が大切なので、少なくとも年一回、場合によってはより頻回に眼科を受診し、網膜症の程度を検査しましょう。網膜のむくみやもろい血管が増えてくる増殖前~増殖網膜症となると進行による視力低下を食い止めるためにレーザー光線や手術による治療をおこないますが、基本的には血糖コントロールによる発症と進行の予防が大切です。
網膜の中心部にむくみが生じる黄斑症や緑内症、白内障も視力低下につながるので、定期的な眼科受診を心がけましょう。

B) 腎臓の合併症[糖尿病性腎症]とは?

腎臓は血液を濃過して体内の老廃物や余分な水分を取り除き、尿として処理する、いわばフィルターのような臓器です。「糖尿病性腎症」では血液を濾過する細い血管の塊である腎糸球体が高血糖により傷むことにより、尿中にたんぱく質が漏れ出るなど、腎臓の働きが悪くなります。糖尿病性腎症の進行度は、尿中に漏れ出るたんぱく質(主にアルブミン)の量と腎臓の働き(糸球体の血液濾過量)により1期から5期までに分けられます(表1)。
腎臓の働きが悪くなると、水分の排泄がとどこおって体にたまることにより、全身のむくみや血圧上昇がみられます。さらに進行すると血液中に有害な老廃物がたまり(尿毒症)、生命にかかわる重篤な症状を引き起こします。糖尿病性腎症の進行にもっとも大きく影響するのは血糖コントロールですが、高血圧も腎症進行の大きな要因となります。食事におけるたんぱく質や塩分の摂りすぎや喫煙もまた悪化原因となるので注意しましょう。
糖尿病性腎症の病期と治療
表1:糖尿病性腎症の病期と治療
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p27, 南江堂, 2020)

C) 神経の合併症「糖尿病性神経障害」とは?

神経は全身にくまなく張りめぐらされてさまざまな情報を伝えている、体におけるネットワーク回路といえます。「糖尿病性神経障害」では血中や体内にあふれる過剰なブドウ糖が神経内に蓄積して神経自体を変性させるほか、神経周囲の細い血管を傷めて神経の働きが悪くなります。この糖尿病性神経障害には、手足の感覚や運動をつかさどる神経における「末梢神経障害」と、胃腸や心臓といった内臓の働きを調節している神経における「自律神経障害」、その他の神経の障害があり、全身にさまざまな症状を引き起こします(図2)。
全身で痛みや温度などを感じる末梢神経が長く続く高血糖により障害されると、足の裏に紙を貼ったような違和感、正座のあとのようなしびれ感、冷感、ほてり、軽い~刺すような痛みなど、さまざまな症状があらわれます。これら末梢神経障害が軽いうちは、血糖コントロールにより症状がなくなったり、軽くなったりします。しかし、血糖コントロールが悪い状態が長く続くと、激痛といった症状の悪化につながることもある一方、逆に感覚が麻痺してやけどや傷の痛みを感じなくなってしまうこともあります。場合によっては傷の気づきや手当てが遅れ、足潰瘍や壊疽、切断まで進んでしまうことがあり、神経障害がある場合ではフットケアがとても重要です(図3)。
自律神経は、自分の意志と関係なく胃腸や心臓といった内臓の働きを調節しています。この自律神経も同じく高血糖により障害され、胃もたれ、がんこな便秘、下痢、立ちくらみ、勃起障害(ED)などさまざまな症状が起こります。とくに心臓においては、心筋梗塞などが起こっても胸痛などの症状が出ない場合もあり、知らずしらずのうちに心臓が傷んでいくことがあり、注意が必要です。これら自律神経障害も初期であれば血糖コントロールをよくすることで改善することがあります。このような症状はほかの病気が原因で起こることもありますが、大きな問題となることもあるため、小さな症状でも主治医とよく相談しましょう。
日常生活におけるフットケア
図3:日常生活におけるフットケア
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p30, 南江堂, 2020)

(7) 太い血管の合併症(動脈硬化)とは?

A) 動脈硬化はどのようにして起こるのか?

動脈硬化とは、動脈の壁のしなやかさがなくなり、また内部にさまざまなものが沈着するなどで、血管が詰まりやすくなった状態をいいます。動脈硬化は年をとれば程度の差はあれ誰にでも起こりますが、糖尿病に加えて血液中の悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多い、もしくは善玉(HDL)コレステロールが少ないなどの脂質異常症があるとより早く進行します。これら以外の危険因子には、高血圧、喫煙、肥満、加齢などがあり、これらがいくつも重なると動脈硬化はより進行していきます。

B) 動脈硬化によって起こる病気は?

動脈硬化が進行すると、脳の動脈が詰まる脳梗塞(脳卒中のひとつ)、心臓の筋肉に栄養や酸素を送る冠動脈の血流が悪くなる狭心症や冠動脈が詰まる心筋梗塞、足の動脈が詰まる閉塞性動脈硬化症といった、生命を脅かし、また日常生活の支障となる重篤な病気を引き起こします。脳卒中の発作では、急に手足や顔面が麻痩したり、言葉が出なくなったり、意識を失って倒れたりします。症状が後遺症として残ることもあります。心筋梗塞では、急激な胸の激しい痛み、狭心症では運動時などに胸がしめつけられる感じなどが起こりますが、糖尿病性神経障害のために、はっきりした胸の痛みがないこともあります。閉塞性動脈硬化症では、歩いていたら足の痛みで立ち止まってしまうが、しばらくするとまた歩けるようになる間欠性跛行や足の一部が腐る壊疽が起こります。

C) 動脈硬化を予防するためには?

これらの動脈硬化を予防するためには、血液検査に加え、心電図や動脈硬化評価検査などを定期的に受けて状態を把握するとともに、血糖値以外にも血圧、血中脂質を適正に保つことが大切です。また、禁煙や肥満と運動不足の解消も動脈硬化の進行予防にはとても大切です。

(8) 感染症と糖尿病の関係は?

糖尿病の高血糖状態が続いていると、細菌、力ビ、ウイルスなど微生物による病気(感染症)にかかりやすく、また治りにくくなります。気管支炎、肺炎、結核、胆嚢炎、腸炎、膀胱炎、腎孟腎炎、インフルエンザなどにかかりやすく、時に重症になることがあります。うがいや手洗いといった一般的な感染予防とともに、インフル工ンザの予防接種も有効です。とくに皮膚では足の指と爪、陰部などの水虫(白癬)やカンジダ、感染症も起こりやすく、放置すると足の壊痘につながることもあり、早期治療が必要です。また、歯ぐきの感染症である歯周病にもかかりやすく治りにくいことから、毎日の歯みがきのみではなく、定期的に歯科を受診しましょう。

(9) 認知症と糖尿病の関係は?

糖尿病があると認知症が約2倍発症し、また進行しやすくなります。認知症になると糖尿病の療養行動がむずかしくなり、より糖尿病の悪化を招く悪循環に陥りやすくなります。糖尿病の血糖コントロールをしっかりおこなうと同時に、もうひとつの危険因子である重症の低血糖を避けて認知症発症を予防し、また早期発見と治療により進行をくい止めることが大切です。

(10) 足病変とは何か?フットケアはどうおこなうか?

糖尿病では、さまざまな要因により足の病気(足病変)を起こしやすくなります。まず、神経障害の合併のために足の感覚が鈍くなり、たこや傷が気づかないうちに進行したりします。また、足の血管の動脈硬化のため足の先まで血液が十分に流れなくなり、酸素や栄養分などが不足します。微生物に対する抵抗力が弱まり、足の傷の感染が治りにくく、悪化しやすくなります。このため、少しの傷や水虫(白癬)などの足の病気が重症化しやすく、適切な手当てが遅れると、皮膚の潰蕩や壊疽まで進むことがあります(図4)。これら足病変の予防のためには、日頃から足をよく観察して、小さな変化に早く気づくこと、足の手入れをこまめにするフットケアが大切です(図3)。糖尿病足病変の発症、再発、進行の予防を目的としたフットケア外来が現在、多くの医療機関で開かれています。糖尿病専門医とフットケアの知識や処置の技術を習得した専任の看護師が足の観察、処置、自己管理指導をおこないますので、積極的に利用しましょう。
糖尿病による足の病気
左:血流障害、神経障害、感染症による足壊疽
右:入浴洗髪中にお湯の滴下に気づかずできた火傷による水疱(すいほう)
図4:糖尿病による足の病気
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版), p29, 南江堂, 2020)
より詳しい内容は、日本糖尿病学会の発行する「糖尿病治療の手びき」を参照してください。
糖尿病治療の手びき
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更新:2021年9月2日