杉山 摩利子(Mariko Sugiyama)

所属
名古屋大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科
代謝研究への関心の原点
このたび「未来の糖尿病研究者」というテーマで寄稿の機会をいただき、これまでの自分の歩みを振り返る良い機会となりました。振り返ってみると、最初から研究者を目指していたというよりも、さまざまな出会いやご縁に導かれて現在の研究に携わるようになったように思います。
もともと私は食べることや栄養に関心があり、学生の頃から食事と身体の関係に興味を持っていました。高校生の頃に体調を崩した経験を通して、食事が身体に与える影響を実感したことが、代謝の仕組みに関心を持つきっかけだったように思います。血糖や体重といった代謝の状態は、さまざまな臓器や生体シグナルの連携によって保たれています。その精巧な調節の仕組みを知るにつれ、身体の調節機構の奥深さに惹かれるようになりました。こうした関心が、代謝領域に興味を持つ原点となったように思います。
内分泌・代謝内科との出会い
研修病院にて「内分泌・代謝内科」を専門として選んだのは、研修当時の上司の人柄や周りの環境も大きかったと思います。実際にこの分野に携わるようになってから、糖尿病や肥満といった代謝疾患が、生活習慣、遺伝的背景、環境など多くの要因が関わる非常に複雑な病態であることを実感しました。大学院では肥満研究をテーマとして、中枢神経による糖・エネルギー代謝調節の研究に携わる機会をいただきました。食欲やエネルギー代謝を制御する脳の仕組みは、まだ解明されていない部分も多く、基礎研究として非常に興味深い領域です。こうした研究を通して、大学の研究グループの一員として国際学会に参加し発表する機会もいただきました。異なる国や分野の研究者と議論する経験は、自分の研究を客観的に見直す良い機会であり、研究の面白さを改めて実感する場でもありました。
中枢から考える糖尿病研究
現在は、大学院で取り組んだテーマを継続して研究を行っています。糖尿病はこれまで主に膵臓や肝臓、筋肉、脂肪など末梢臓器の異常として理解されてきましたが、近年では脳を含めた臓器間ネットワークの中で代謝が調節されていることが明らかとなりつつあります。特に最近では、GLP-1受容体作動薬が糖代謝のみならず食欲や体重を調節する中枢にも影響を与えることが注目されるようになってきました。こうした糖尿病治療薬の進歩により、血糖値だけでなく体重や食行動を含めた代謝調節を意識して診療する時代になってきたと感じています。糖尿病という疾患を理解するには、血糖値だけでなく、その上流にある「なぜ食べるのか」という行動の側面から代謝を考えることも重要なのではないかと考えています。
研究が臨床にもたらすもの
研究を行う意義の一つは、病態の分子機序を理解できるようになることだと思います。糖尿病診療ではさまざまな薬剤を用いて血糖値を下げ、体重を管理し、合併症を予防しますが、その背景にある仕組みを理解することで、なぜその治療が有効なのか、どのような患者さんに適しているのかをより実感をもって考えることができます。研究を通して病態や薬剤の作用機序を学ぶことは、単になんとなく治療を行うのではなく、確たる根拠をもって治療法を選択し、患者さんに説明することにつながると感じています。
また、研究を通して身につく科学的な物事の考え方も重要だと思います。現象をそのまま受け取るのではなく、背景にある要因を考え、仮説を立てて検証し、その結果を解釈するという姿勢は、医療において適切な判断を行ううえで大きな助けになります。こうした考え方は医療の場面だけでなく、人生のさまざまな場面で物事を整理し、自分なりに判断していくうえでも役立つものではないかと思います。
未来の糖尿病研究者へ
糖尿病研究の魅力は、基礎研究と臨床が近い距離にあることだと感じています。臨床で生まれた疑問が研究の課題となり、その成果が再び診療に還元されるという循環があります。脳、代謝、行動、環境、遺伝など多様な視点が統合されることで、糖尿病の理解はさらに深まっていくでしょう。未来の糖尿病研究を担う若い研究者の皆さんが、それぞれの視点からこの分野を発展させていくことを楽しみにしています。
名古屋大学医学部の研究グループ
更新:2026年6月12日
※所属は掲載当時のものです

