水野 美華(Mika Mizuno)

所属
原内科クリニック/京都大学大学院医学研究科
看護師を目指した理由
幼いころから、テレビで医療関係の番組を見るのが好きで、ドキュメンタリーやドラマをよく見ていたことを覚えています。
看護師を目指したこれといった理由は覚えていないのですが、将来は保育士か看護師になる自分を思い描いていたと記憶しています。身内の中にも医療関係者が多かったことから、いざ選択する時期には看護師一択になったのだと思います。
外来から在宅、そして最期まで
日本は世界規模でみても高齢化率の高さは常に上位であり、様々な対策が講じられています。その一環として、20年ほど前から、行政における“地域包括ケア”に関する議論が始まり、ここ最近では地域包括ケアシステムが定着しつつあるように感じています。
当院は糖尿病メインのクリニックで、通院中の患者さんの3割が75歳以上ですので、高齢者の特有の課題を踏まえた支援は必要不可欠となっています。数年前までは、在宅診療の体制が整っていなかったこともあり、通院が困難になった高齢の方は近医に紹介することしかできませんでした。
しかし、その後、在宅診療に対応できる体制を整え、今では外来通院が困難になった方については、在宅への切り替えをスムーズに行えるようになり、通院中の高齢の方の安心材料にもなっています。
在宅診療を始めるにあたり、事前準備をはじめ軌道に乗せるまでは、思いのほか大変でした。ただ、在宅ケアを経験したからこそ分かったことがたくさんあり、その必要性も痛感しています。
在宅診療を始めてまだ慣れない頃に忘れられない出来事がありました。
1ヶ月に一度の定期診察をこれまで欠かしたことがなかった高齢のAさんが、ある日の予約日に来院しなかったので、その日は“珍しく診察に来られなかったなあ”と思っていました。そして、その日から1ヶ月以上過ぎたころ、突然、その方のご家族から一本の電話が入りました。
“(ご本人が)食事が食べられないのですが、インスリンはどうしたらよいのでしょうか・・・”という内容で、まずはご家族から、通院予定であった頃からの状況を聞きとった結果、“ずっと横になっている状態で食事が十分摂れていない”という概ねの状況が分かりました。
とりあえず、往診に行くことにしたのですが、“腰が痛くて動けない状態”という、安直な想定のもと、Aさん宅に向かいました。ご家族に案内された薄暗い部屋には、痩せこけて、消耗しきったAさんが、敷布団に横たわったまま、絞り出すような声で“うーうー”とうなっていました。ご家族から詳しく話を聞きながら、痛いと言われている腰の状態を確認しようと思い、1ヶ月の間装着し続けていたという胸腰椎用のビックサイズのコルセットを外してみると、臀部から大腿骨頭まで広範囲におよぶ褥瘡が出来ていました。
さらに、腰や褥瘡の痛みで動けないため、トイレに行かなくて済むよう、数口のお粥で過ごし、そのためインスリンも打つのを止めていたとご本人から聞くことができました。
当初の想定をはるかに超えた身体状況であり、まずは受け入れ可能な医療機関をあたりましたが、コロナ禍でもあり、入院は断念せざるを得ない状況でした。気持ちを切り替えて、頼りにしているケアマネージャーさんに連絡し、マネジメント依頼と合わせて、取り急ぎベッドの手配をお願いしたり、ご家族には役所に行って、介護申請の手続きをしてもらうよう、協力をお願いしました。その日はその場でできる限りの対応をし、翌日からしばらく訪問で対応していく手筈を整えました。
翌朝5時ごろ、前日に緊急連絡用の携帯電話に登録したばかりの息子さんからの着信があり、“朝起きて見に行ったら、ベッドの上で亡くなっていました、ありがとうございました。”とのご連絡でした。この方は、他の併存疾患の影響もあり、遠方からの通院が困難になってきていたころで、在宅診療を始めようかという話をしている事前準備の段階でした。
これを機に、在宅診療が可能であることを、通院患者さんに周知することに加え、介護申請やケアマネージャーさんとの連携など、より積極的に行えるようになったと実感しています。
ここ最近の在宅ケアのなかでは自宅での看取りも、ご家族や周囲のメディカルスタッフの協力を得ながら、亡くなる間近まで、好きなものを食べて最期を迎えることができているケースも経験できています。
まだまだ、模索中の課題が山積みですが、少しずつより良い支援に近づけて行ければと思っています。
おわりに
糖尿病と言われてから、“食べること”に対する意味が変わってしまうことが往々にしてあります。それは、ご本人だけでなく家族をはじめとした周囲の人々も含めてだと感じています。食事療法は糖尿病治療の基本ではありますが、好きなものを食べてはいけないわけではありません。糖尿病と診断されてからも、その方らしい生活ができるよう、これからも支援を続けていきたいと思っています。

(東海地区の糖尿病看護認定看護会)
公式LINEポスター
更新:2024年11月28日
※所属は掲載当時のものです