糖尿病医療者・研究者の「多様なキャリア」を応援する

それぞれのストーリー

小野木 康弘(Yasuhiro Onogi)

小野木 康弘(Yasuhiro Onogi)

所属

富山大学 学術研究部 教育研究推進系 未病研究センター 特命助教

自己紹介

私は、富山大学薬学部に在籍中、卒業研究として笹岡利安 教授が主宰する研究室に配属されたことを機に、代謝研究の道に入りました。それ以来、肥満マウスの脂肪組織に注目しインスリン抵抗性の病態解明に取り組んでいます。2017年に学位を取得後、笹岡教授の研究室で2年間のポスドク期間を経た後、2019年からドイツ・ミュンヘンのHelmholtz Diabetes Centerに留学しました。2022年夏より、現職で引き続き脂肪組織の病態生理を研究しています。

海外留学はよかったか

海外留学を経験できたことに非常に満足しています。海外留学について、キャリア面で不安定、経済的不安、海外生活の不安などの要素はありました。学位取得後、すぐに正規の職に就くか海外留学するか、ずいぶん葛藤しましたが、海外留学をしなければ振り返った時に後悔するだろうとの思いで海外留学を決断しました。結果的には、不安を上回るほどの充実感がありました。

ドイツ留学時代のボスであるSiegfried Ussar博士は、私と年齢の近い、独立間もない若手PIで、人柄も相まって非常に活気のあるチームワークと独立性のバランスを上手く取ったラボ運営をしていました。研究所全体でラボ間の垣根が非常に低く、試薬の融通、ノウハウの共有、情報交換が活発に行われて、物理的にも文化的にも風通しの良い環境が整っていました。そのような環境の中でどのように良い研究に仕上がっていくのかを体験できたのは非常に有意義でした。また留学開始当時は、試薬一つとっても場所がわからず、新しい実験を始めるにも大学院生に教えてもらうことが多くありました。上下関係なくフラットな関係で協力する経験ができたことで、自分で抱え込む事も少なくなりました。そもそも、生きるためにあらゆることを人に聞かなければわからないという環境で過ごしたお陰で、頼ることに躊躇いがなくなり、ずいぶん生きやすくなったと思います。

また、10を超える国籍の友人ができ、日本文化を体験してもらうこともできましたし、出会ったことのない異文化と触れることができたのは人生においても財産だと思っています。さらに、海外留学している日本人研究者同士がある種の連帯感を感じて分野を超えたつながりを得られたのも、日本を飛び出して得られた貴重な経験でした。

いつポスドク先を探したらよいか

Non-MDの大学院生の方は特に計画的に進めることをお勧めします。私の場合、決まるまでに1年半近くかかりました。ポスドク先を探すのは、論文業績、しかも良い論文がなければ相手にされないと思っていたため、学位取得要件の原著論文が国際学会誌に採択される修業年限間際まで探せずにいました。留学してから知ったのですが、欧州の大学では必ずしも原著論文の採択が学位取得要件になっていないため、欧州出身のポスドク希望者は筆頭著者の論文がないことも少なくありません。Ussarラボでポスドク候補の面談を何度か経験しましたが、面談後のフィードバックとしては、ラボメンバーとうまく働けそうか、どんなスキルを持っていて、どんな相乗効果が生まれるかを期待しているようでした。大学院時代にそれを知っていたら、業績が出るまでと渋らずに、スキルをアピールして応募していれば良かったと、唯一後悔しています。

ヨーロッパも視野に

当初はアメリカを中心にメールを送っていましたが、ほとんど返事がなく、返事があっても研究助成金を採ってきたら採用してもいい、という回答でした。ダイレクトメールで応募する場合には、フェローシップを持って行くのが素性の知れない人を迎える側にとってはリスクが少ないのだろうと思います。そんな折、ドイツが選択肢に上がったのはUssar先生の総説に私の論文が引用されたことがきっかけで彼の名前を知ってからでした。偶然にも共通の知人がいた事で、面談・採用まであっという間に決まりました。

欧州を研究留学先に考える人はあまり多くないかもしれませんが、ドイツは治安もよく、労働環境が非常に整備されていて、労働者が守られています。早い時間から出勤し、17時にはほとんど退勤します。ワークライフバランスの文化と高生産性を実感しました。Ussar先生とは、ライフステージが似ていたこともあり、私が単身で来ていることを彼はいつも気にかけてくれていました。日本にいる妻と息子と過ごすために、数週間の一時帰国に理解を示して頂いた事も、非常に感謝しています。欧州のいいところは、何と言っても週末に欧州の名所を巡ることができるところです。せっかく海外で生活するなら、研究だけでなく、プライベートで名所観光できる欧州が魅力的ではないですか?

小野木 康弘(Yasuhiro Onogi)

最後に、海外留学を経験して、タイムパフォーマンス・コストパフォーマンスといった最短かつ最適解を求めるような思考から少し距離をおいて、不確実性を楽しめる余裕が生まれたことは、今後の人生にとって非常に有意義であると感じています。海外留学を志す方にとって、この体験談が一歩踏み出す勇気になれば幸いです。

末筆ではありますが、海外留学にあたり多大なるご支援をいただきました公益財団法人 上原記念生命科学財団およびドイツ連邦共和国アレクサンダー・フォン・フンボルト財団には、厚く感謝申し上げます。

更新:2024年7月16日

※所属は掲載当時のものです

  • STORIES
  • STORIES
  • STORIES
  • STORIES