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それぞれのストーリー

永井 洋介(Yosuke Nagai)

永井 洋介(Yosuke Nagai)

 

所属

東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科

(留学先:Brown University, Department of Molecular Biology, Cell Biology, and Biochemistry)

自己紹介

東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科に所属する、卒後13年目の医師です。卒後6年目に大学院博士課程に進学し、糖尿病性腎症に関する基礎研究に取り組みました。10年目に臨床に復帰し、附属病院で2年間勤務した後、12年目からアメリカに研究留学をさせていただいています。公認会計士として監査法人に勤務する妻と、留学開始後に日本で生まれた娘との3人暮らしです。

留学先について

私は、2023年4月より米国ブラウン大学に留学しています。ブラウン大学があるロードアイランド州プロビデンスは、ボストンから南に車で1時間程の位置にある街です。ブラウン大学や全米一の美術大学であるロードアイランド・スクール・オブ・デザインなど多くの教育機関を有する学園都市で、ニューイングランド地方ではボストンに次ぐ2番目の規模の都市ですが、都会過ぎず静かで落ち着いた雰囲気があります。大学関係者が多く住んでいるため治安は良く、身の危険を感じるようなことはほとんどありません。アメリカ東北部に位置し、冬は寒さが厳しいものの、夏は涼しくとても過ごしやすいです。夏場の週末には、市街の中心を流れるプロビデンス川を数kmにわたって松明でライトアップするWater Fireという名物イベントがあり、多くの観光客で賑わいます。また郊外のニューポートという街も古くからの避暑地として有名で、グレート・ギャツビーの世界を思わせる19世紀の豪邸の数々や、国際テニス殿堂にポロ競技場、また無数の白いボートが海に浮かぶ様子が見られ、アメリカ富裕層の夏休みを垣間見ることが出来ます。

留学先の研究主宰者であるMukesh K. Jain博士は、心血管疾患や全身のエネルギー代謝におけるKrüppel-like factorの意義について研究を行ってきたPhysician-scientistです。ハーバード大学にてPeter Libby教授の下で研究者としてのキャリアをスタートさせ、その後クリーブランドにあるケース・ウエスタン・リザーブ大学で循環器科の教授を務めた後、2022年にブラウン大学に医学部長として移ってきました。こちらのラボはまだ立ち上げの段階であり、メンバーは5人しかいませんが、その分全員で協力し合いながら研究を行っています。Jain先生は大変指導熱心な先生で、医学部長として多忙な中でも、週1回のミーティングではネガティブデータも含めて全てのデータを自らの目で確認し、的確なアドバイスをしてくれます。また日々の研究指導はクリーブランドから異動してきたXudong Liao准教授が担当してくれ、十分な指導を受けられる体制が整っています。こちらで私は、SGLT2阻害薬がheart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)を改善する機序を明らかにする、というテーマを与えられて研究をしています。なかなか順調には進まず悪戦苦闘中ですが、海外の研究室で、かねてから勉強してみたいと考えていた循環器領域の研究に携われることに、日々充実感を感じています。

永井 洋介(Yosuke Nagai)
ブラウン大学のメインキャンパス

留学先での生活

留学前はアメリカでの生活に不安を抱いていましたが、いざ来てみると大きな問題なく生活出来ています。食事に関しては、全米で利用可能なアジア食の通販があるため、ほとんど日本にいるのと変わらない食材・調味料を手に入れることが出来ます。近所の大手スーパーでも、日本食が流行っているのか、豆腐や餃子、冷凍炊き込みご飯などが売っていて驚きました。今春新たに日本食スーパーとユニクロがプロビデンスに開業予定です。家族の生活についても、こちらの日本人コミュニティーの方々に助けていただき、うまくスタートすることが出来ました。日本人のママ友が集まる英会話教室や、子供向けに本の読み聞かせやゲーム大会をやっている日本人グループがあり、生まれたばかりの娘の公園デビューも無事果たせました。妻はママ友の紹介で、ブラウン大学内でNPOが運営する本格的な英会話教室にも通い始め、英語を勉強しながら様々な国籍の人々と交流を深めているようです。FacebookなどのSNSを利用すると各都市に日本人グループを見つけることが出来ますので、留学前に知り合いを作っておくと、スムーズに現地の生活に馴染めるのではないかと思います。

留学での発見

ガザ危機以来、アメリカ国内でも緊張が高まっており、大学のキャンパス内でデモ活動が活発化したり、大学周辺で実際に双方の人々への攻撃が発生したりしています。この問題に関連した犯罪や攻撃予告への注意喚起のメールが大学から送られてくる頻度も増えました。ラボのメンバーにシリア人がいることもあり、私も他人事とは思えない不安感をどこかに感じながら生活しています。11月には大統領選が控えており、ここ数年のアメリカにおける重要な局面に居合わせているのかもしれません。治安面での不安はありますが、異文化の中に身を置き、世界情勢を身近に感じられることも、海外留学の醍醐味なのではないかと考えています。

海外で活躍する日本人研究者との出会いも、留学の喜びの一つです。ブラウン大学には日本人があまりいませんが、運よく渡米直後に声を掛けてもらい、数人のグループで定期的に食事をご一緒させていただいています。専門は私と同じ生物系の他、化学、物理、経済など多様で、年齢もそれぞれ異なりますが、高いモチベーションを持ってアメリカで研究している日本人研究者の方々と交流することは、大変良い刺激になっています。

その他には、家族との時間が確保できることが留学の意外なメリットだと感じています。研究自体は楽ではなく、週末も研究室に顔を出すことが多いですが、日中に研究に専念することができ、当直や夜遅くに実験することがないため、家族と過ごす時間は日本にいた時よりも増えました。自らのキャリアを中断して留学についてきてくれた妻には相変わらず負担を掛けっぱなしなのですが、毎日家族とゆっくり過ごす時間を持てることに幸せを感じています。

最後に

急激な円安や物価高の影響で、海外留学をめぐる状況は厳しくなっていると思います。経済的な面だけを考えれば日本にいる方が良いかもしれませんが、留学生活は毎日が新鮮で楽しく、私自身留学したことを全く後悔していません。私は人に海外留学を勧められるような立場にはありませんが、この体験記が海外留学を考えている先生方の参考に少しでもなれば幸いです。

更新:2024年5月24日

※所属は掲載当時のものです

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