別所 瞭一(Ryoichi Bessho)

所属
旭川医科大学
私は現在、米国テネシー州ナッシュビルのバンダービルト大学で、ミトコンドリアの電子伝達系機能が腎臓の病態生理に及ぼす影響について研究しています。私の留学生活は道半ばであり、まだ総括できる状況にありませんが、これから留学を考えている方々の何か参考になればと思い、これまでの経緯と現状についてご紹介します。
大学院博士課程では、糖尿病性腎症におけるSGLT2阻害薬の腎酸素代謝への影響というテーマをいただき基礎研究を行いました。医局の先生方には、専門医・学位取得後はできれば海外に留学し、研究のスキルを磨きたいと希望をお伝えし、専攻医として大学病院での臨床・研究業務に従事しました。2022年4月頃に、来春から留学してみてはどうかと提案いただき、本格的に留学先を探し始めました。日本糖尿病学会年次学術集会(神戸)では、海外留学から帰国後の他大学の先生に直接お話を伺い、留学先の研究室のリアルについて教えていただきました。本当にありがたいことに、どの先生も、突然話しかけたにも関わらず、丁寧に相談に乗ってくださりました。
結果として、腎臓の酸素代謝や低酸素応答に関して多くの研究成果があり、憧れの研究者であったVolker Haase教授の研究室の求人に応募しました。Haase教授とは直接の面識はありませんでしたが、ラボメンバーも含めた3回のWeb面談の後、受け入れが決まりました(面談では、家族や研究についての雑談や、これまでの研究内容のプレゼンテーション、Haase Labの研究内容についてどう思うかという質問などがありました)。
NIH規定の最低額の給与を出すという内容でオファーをいただきましたが、Haase教授より「今後、研究を続けるのであれば、Fundingの機会には積極的にトライすべきだ!」と背中を押していただき、奨学金申請の準備を始めました。オンラインミーティングで、Haase Labで作成中の遺伝子改変マウスやバンダービルト大学の研究施設の特色や強みについて教えていただき、申請書を作成しました。そして幸運にも、上原記念生命科学財団、伊藤医薬学術交流財団の海外留学助成に採択いただき、2023年4月より客員研究員としてHaase Labでの研究を開始しました。

妻と5歳の長女、2歳の長男と渡米し、1年目は生活の立ち上げ、子供たちの学校や幼稚園への申し込みや、季節行事への参加など色々なことがあり、まずは家族で生活していくだけで精一杯!という日々が続きました。言葉の壁や、慣れない環境に戸惑う事は多いですが、臨床業務がないため、家族で過ごす時間は日本にいたときよりも増えました。
2024年4月より、Research Fellowとして雇用していただき、割安な医療保険や、論文・グラント作成のためのワークショップ、外国人研究者向けの英会話と英作文のトレーニングなど複数のベネフィットが受けられるようになりました。大学内での友人や共同研究者も増え、徐々に充実した研究生活を送ることができています。
海外留学で得られるものは、研究に集中しスキルアップできる環境、新たな出会いなど様々なものがありますが、決して留学しなければ得られないものではないかもしれません。物価高と円安の昨今、金銭面での厳しさは増し、貯金を切り崩しながらの生活です。しかしそれでもなお、海外留学は、自らの専門性を高め、好奇心を満たすためのとても良いパッケージであると思います。必ずしも成功は約束されていませんが、確実に少しは成長できるのではないかというワクワクした気持ちが、日々の研究の原動力になっています。
最後に、今回の留学の機会をいただいた旭川医科大学内科学講座内分泌・代謝・膠原病内科学分野の諸先生方に深謝申し上げます。この体験記が、これから海外留学を考える方々にとって、少しでもお役に立つことができればとても嬉しく思います。

更新:2024年5月24日
※所属は掲載当時のものです