岡本 幸子(Sachiko Okamoto)

患者さんの中にあるHappyを後押しするお手伝いがしたい
所属
横浜市立大学附属病院
職業
看護師
資格
日本糖尿病療養指導士取得:2002年
”患者さんが合併症を起こさずHappyな人生を送るお手伝いがしたい・・・・”この思いを抱いて私は日本糖尿病療養指導士(以下CDEJと略す)になりました。そして、先輩からは“糖尿病と診断された患者さんには治療の必要性を説明するように”と教わりました。その内容は放置すると合併症が起きやすいこと、合併症は血糖コントロールで予防できること、予防は自己管理(食事・運動・薬物)で達成できることです。私は入院してくる患者さんはみんな治療方針に同意して、きちんと実行するものだと思っていました。
しかし、CDEJになって間もなく、私の思いは甘かったことに気付きました。教育入院の最終日に「ちゃんとすれば血糖値が良くなるのはわかるけど、仕事をして付き合いもあるし、食事療法なんて出来ないよ。酒もたばこもやめられないと思うよ。」とか、「退院してしばらくは血糖値が良かったんだけど、だんだん食べ過ぎちゃって体重も血糖値も増えちゃって、また入院になっちゃった。」とか、入院しても「糖尿病教室は以前、聞いたことがあるから結構です。」と語る人も少なくありませんでした。それぞれの職種から個々にアプローチをしても「あんたらプロだろ!病気を治すのが仕事だろ!!」と声を荒げられたこともありました。多くの患者さんの前に私の思いは撃沈しました。自分自身のことなのになぜこんな風に考えるのだろうと感じながらも、なぜか私はこのような患者さんたちから離れることが出来ませんでした。
そこで私は自分の思いを話すことを封印して、患者さんの話を聴くことにしました。すると私の期待通りの反応が返ってこない患者さんは、どの職種が関わっても医療者にいろいろな提案をされてもご自身の思いに正直で、一貫して“出来ないことは出来ない”とはっきりおっしゃるのです。それでも定期受診は欠かさない方が多く、ご自身が出来る療養行動をされていることに気付きました。血糖コントロールがつかず、医療者が望む治療が上手く出来なくても糖尿病をよくしたい思いを私たちと同じように持っていました。患者さんの思いや価値観を置き去りにして一律に合併症にならないことがHappyだと信じていた私の指導は偏っていました。Happyはそれぞれの患者さんの中にあったのです。
先日、かつて何度も声を荒げられた患者さんが合併症の手術を受けて介護が必要となっていました。私の顔を見て「俺はあんたの言っていたことをよく覚えている。言われたようにしていたらこんな身体になってなかったんだろうって思うよ。でも俺はまだ、くたばっていないからな。」と微笑んでおっしゃいました。この患者さんと出会って15年以上経って初めて、当時の私が役に立てていたのかなと実感しました。そしてCDEJを続けてきてよかったとも思いました。長期間、糖尿病の生活習慣を守らなかったから合併症になったんだという医療者がいることも知っています。しかし、私は声を大にして言いたいのです。“そんなこと言わないで!通院をしているからこそ合併症の対応ができる。患者さんはみんな糖尿病をよくしたい思いを持っている。患者さんの中にあるHappyになりたい力を信じたい。その中で起こりうる困難は一緒に乗り越えていきましょう!”と。
また、病院内外にいる職種を超えた糖尿病医療仲間の存在も私には欠かすことができません。良い連携を保ちながら専門性を生かすために、カンファレンスや症例検討会では笑顔で容赦ないあたたかな意見を頂けます。落ち込んだ時には這い上がってこい!と支えてくれる存在でもあり、私を成長させてくれます。私はこれからもCDEJとして走ったり、歩いたり、時には立ち止まったりしながら患者さんや糖尿病医療仲間と一緒に今と未来を進んで行きたいと思っています。患者さんのHappyを探すために・・・。

更新:2022年3月31日
※所属は掲載当時のものです