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それぞれのストーリー

北村 忠弘(Tadahiro Kitamura)

北村 忠弘(Tadahiro Kitamura)

医師が医学基礎研究をする大切さ

所属

群馬大学生体調節研究所 代謝シグナル解析分野

はじめに

先日、獨協医科大学内分泌代謝内科の薄井勲先生から、本コーナーで「未来の糖尿病研究者」をテーマにした寄稿をして下さいとご連絡を頂きました。薄井先生も同じテーマで執筆されており、医学と医療の両輪の大切さ、基礎研究か臨床研究かに関わらず経験することの大切さを書かれていました。今回の寄稿では、以下の2点に絞って私の意見を書かせて頂きます。
(1)医師でなくてもできる医学基礎研究を医師がやる意義
(2)最近、医学基礎研究をする若い医師が激減している本当の理由

医師でなくてもできる医学基礎研究を医師がやる意義

私が2006年より所属している群馬大学生体調節研究所は国内唯一の内分泌代謝学を専門とする大学附属研究所です。主に糖尿病や肥満症などの疾患を対象に、マウスやラットのみならず、ハエ、魚、線虫など多彩な実験動物を用いた医学基礎研究を行なっています。約半数の講座はMDの教授が主宰しておりますが、様々な学部出身の多様な研究者集団であることが大きな特徴となっています。この多様性は新しい視点、新しい技術の導入につながることが多く、有意義です。正直、研究力としては学部生時代から研究生活を送ってきたnon-MDの方が高い場合が多いですが、研究に対する目的意識が異なります。non-MDは多くの場合、研究目的は未知の生命現象を解明することであり、生物学的興味が動機となっています。一方、MDの場合は疾患の原因、病態解明であり、その延長線上に必ず現在の医療では完治が困難な病気で苦しむ患者の姿があります。そのどちらであっても、結果的に医学や医療の発展に貢献できれば良いわけですが、医師が医学基礎研究を行う最大の意義は研究の目的を患者から外さないことだと感じています。そのことが将来の医療の発展に効率的だと思うからです。
また、医師が基礎研究と臨床業務を掛け持ちすることには、基礎研究者と臨床医の両方から批判されることがあります。基礎研究者からは研究を臨床業務の傍に行うのはサイエンスに対する冒涜であるという意見、臨床医からは基礎研究の合間に診療をすることは患者に対し不謹慎だという意見です。私はこれらの意見に反論したいと思います。努力は必要になりますが、基礎研究と臨床業務の両方ができるのであれば、それが最も効率的なトランスレーショナルリサーチになるからです。臨床で得られたヒントをもとに基礎研究テーマが決められたり、基礎研究で得られた知見を臨床で自ら実践できる(もちろん、法律と倫理的範囲内で)のは医師である医学研究者にのみ与えられた特権です。基礎研究者と臨床医との共同研究ではなく、臨床から基礎へ、基礎から臨床へ一人トランスレーショナルリサーチができるのは医師である医学基礎研究者だけです。

北村 忠弘(Tadahiro Kitamura)

最近、医学基礎研究をする医師が激減している本当の理由(私見)

国内の医学基礎研究を目指す若い医師の減少が危惧されて久しいですが、一向に改善の兆しは見えていません。基礎研究の重要性や面白さを十分に伝えきれていない私たちの責任もあると思いますし、近年の日本経済の低迷やアカデミックポジションの不足も原因だと思いますが、一番の原因は医師研修制度と専門医制度が足枷となり、基礎研究に携わるチャンスを失っていることだと思います。医学部を卒業し、医師免許取得後、5年間の臨床研修と、さらにサブスペシャリティも含めた専門医になるための期間が必要ですので、大学院に進学する頃には30歳を過ぎてしまいます。いくつかの大学では大学院の在学中に研修や専門医取得ができるようになっていますが、まだまだ主流ではありません。最近、海外留学を支援する機構の審査を担当したのですが、申請してきた医師のほとんどが35歳を過ぎていました。35歳という年齢は結婚、育児、介護など社会的にも忙しくなる時期で、それが理由で留学を諦めるケースも増えています。せめて、少しでも基礎研究の面白さ、醍醐味を若い医師に伝えられればと、2024年7月に群馬県の伊香保温泉で「内分泌、代謝研究は面白い!」というタイトルの内分泌代謝学サマーセミナーを開催する予定です。興味を持って頂ける方々のご参加をお待ちしております。
長々と私見を述べてしまいましたが、未来の糖尿病基礎研究者が国内の医師から消えてしまわないような制度と環境作りを学会でも考えていく必要に迫られていると強く感じています。

更新:2023年12月26日

※所属は掲載当時のものです

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