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それぞれのストーリー

薄井 勲(Isao Usui)

薄井 勲(Isao Usui)

 

所属

獨協医科大学 内分泌代謝内科

はじめに

過日学会事務局より、「未来の糖尿病研究者」をテーマに「それぞれのストーリー」のコーナーに文章を寄稿するようにとのメールをいただきました。大変難しいテーマで、私がその正解を知るべくもありません。ただ、私の経験(ストーリー)が、研究を志す「未来の糖尿病研究者」の方々に多少なりとも参考になれば嬉しく思います。

私の研究歴

私は、1991年3月富山医科薬科大学医学部の卒業です。卒業後すぐに同大学の第一内科に入局し3年間の臨床研修ののち、1994年4月から大学院生として研究を始めました。最初にご指導いただいた小林正教授からは、インスリン抵抗性の分子メカニズムを研究テーマにいただきました。2000年8月からは2年10か月、カリフォルニア大学サンディエゴ校(USCD)のJM Olefsky教授のラボに留学の機会を得ました。さらに、帰国後は富山大学第一内科の第3代教授である戸邉一之先生のご指導のもと、研究を続けることができました。留学からの帰国後しばらくは、自分の研究グループの多くの大学院生や留学生と一緒に一番集中して研究に打ち込むことができた時期であったと思います。私のグループには女性医師が多かったのですが、彼女らの成果をご評価いただき、2010年には日本糖尿病学会の学会賞(リリー賞)を頂くこともできました。2017年10月からは現在の獨協医科大学に移り、麻生好正教授のご指導のもと、基礎研究と臨床研究の両方に関わらせていただいています。

臨床医こそ一度は研究を経験してほしい。

富山大学の自分の研究グループで大学院生の研究指導をしていた時期、研究は一番充実していたのですが、実は同時に常に大きなプレッシャーを感じていました。担当の大学院生にかならず学位論文を仕上げてもらいたいというプレッシャーです。今思えば杞憂なのかも知れないのですが、もし論文が仕上がらなかったら、彼女らのその後の医師人生において研究活動全体に否定的な印象を持たれてしまうのではないかと考えていました。「大学院など入らず、臨床を続けていた方が良かった」とか、「研究は無意味だ」などと言われたくないといつも思っていました(言われないように私も頑張りました)。一方で、論文が仕上がって彼女らが医学博士になれたら、医学研究の価値を理解してくれるだけでなく、それを元に成り立っている臨床にも前向きな印象を持ってくれるのではないか、との期待を込めた気持ちも持っていました。そのため、大学院生との研究は途中で諦めることなく論文化までたどり着くことがとても大事だと信じていました。あくまで個人的な思い込みです。

大学で働いていると、若手の医師から「私は医学者になりたいのではない、お医者さんになりたくて医学部に入ったんです」というような言葉を聞くことがあります。そんな時私は、「良いお医者さんになるためにも、一度は研究を経験してほしい」と思います。医学と医療の関係を理解し、その両方に前向きな印象を持てる医師になってほしいと考えるからです。そのとき、基礎研究か臨床研究かは大きな問題ではないと思います。

これからの糖尿病研究者

糖尿病研究のなかにも、豊富な研究費とマンパワーを持つ一部の施設でしか実施できない研究があります。それらの研究はしばしば、価値の高い研究と呼ばれます。しかし私は、そのような価値の高い研究だけでは糖尿病学の十分な発展は期待できないと思います。併せて、研究に関わるひとの裾野が広がることがとても大切だと考えています。優れた研究発表も、熱心に耳を傾け、それを理解する聴衆がたくさん居て初めてその価値が広く認知されます。そのような状況をつくることがとても大切です。そのためには、研究の手法を知り、自分の研究テーマを継続的に持ち、積極的にその分野の勉強を続けられるひと、すなわち医学と医療の両輪を実践できるひとが、糖尿病診療に関わるひとのなかで増える必要があります。

具体的には、若い方には研修の途中で何等かの研究を経験してほしいと思っています。ベテランの方には、自分の興味のある研究テーマを見つけ、研究グループへの参加を検討する、などの方法があるでしょうか。大学等の研究施設のスタッフは、自施設の研究にとどまらず、地域に出て研究活動の幅を広げることが求められるかも知れません。そして、学会や医師会、行政組織の方々などには、このような地道な研究活動の重要性を理解いただき、それらを支える仕組み作りを進めていただければ大変ありがたいと思っています。

私にはここで、「未来の糖尿病研究者」のあるべき姿を明確に示すことはできません。しかし、糖尿病の研究と診療の発展を願い、各々の立場で研究と診療に関わっていくひとが増える。そのひと達の英知を集めることで「未来の糖尿病研究者」のあるべき姿が見えてくるのではないかと思っています。

更新:2023年7月14日

※所属は掲載当時のものです

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