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それぞれのストーリー

手塚 裕子(Yuko Tezuka)

手塚 裕子(Yuko Tezuka)

 

所属

医療法人社団DM会 成田センタークリニック

「糖尿病とはいったいどんな病気ですか?」と問われて、全く答えられない医療者はいないと思います。それでは、「糖尿病患者とは、一体どのような患者ですか?」と問われたら、みなさんはどのようにお答えになるでしょうか?
「糖尿病」と「私」の関わりは、「糖尿病患者」が原点でした。その原点から現在までのストーリーを、みなさまにお読みいただければと思います。

自分の身に起きたこと

結論から申し上げますと、私は13歳の時に「小児糖尿病」と診断されました。当時の呼称ですが、現在でいうところの「1型糖尿病」です。医師からは「毎日注射をして治します」と告げられましたが、後に母から当時の心境を聞いたとき、「注射をして完治させるのかと思った」とのことでした。それくらい、当時は「1型糖尿病」というものが、医療者ではない一般市民にはわかっていない病気でした。
無理解と偏見。それは、今でも存在するものですが、私がそれを一番感じたのは「医療機関」においてでした。カロリー制限ありき、「食べることは悪」、HbA1cが高いと医療者から怒られ、SMBGをやらないとさらに怒られる。そして、私は「通院中断」に陥りました。

臨床検査技師になるまで

それまでの経過から、私は「医療者は自分の敵だ」と感じていました。会えば怒られ、話をすれば否定される。そんなことが続いていましたが、DKAに伴う急性腹症で救急搬送された際に、検査のために採血室に行きました。
初老の白衣姿の男性職員さんが、高校生の女の子(筆者)を相手に、リラックスさせようと楽しい話をたくさんしてくれました。医療者の「優しさ」というものにそのとき初めて触れたような気がして、私は退院した後、「あのおじさんの職業がなんていうのだろう」と、小児糖尿病患児のためのサマーキャンプに参加していた医師に訊ねて、「臨床検査技師」という職業だと知りました。
「あんな人になりたい」という思いから、「あんな仕事がしたい」、「これから同じ病気になる人に、自分のような思いをさせたくない」という気持ちに変わるまで、さほど時間はかかりませんでした。「病気を持つ自分が医療に携わることで、何かが変わるかもしれない」と思い、臨床検査技師を志しました。

またもや…

無事に技師学校を卒業し、国家試験にも合格していざ就職活動です。ここでまた、自分の目の前に立ち塞がったのは「医療機関」でした。就職試験を受けたすべての医療機関から不合格を告げられ、幸いにもその理由を聞かせてくださった担当者からの言葉は、「医療は健康な人が、病気を持つ人を受け持つ仕事です。病気の人には任せることはできません」というものでした。
まさか、病気を理解しているはずの医療機関からこんな言葉を聞くとは…。それでも医療機関で働くことを諦めずに、検査センターのバイトでつなぎながら、前職場である一般内科のクリニックに就職することができました。

手塚 裕子 先生

自分自身が偏見を持っていた

最初に正規雇用として就職したクリニックには、月に1回、糖尿病外来がありました。その当時はまだ「糖尿病療養指導士」という資格もありませんでしたが、私が「1型糖尿病である」ということを担保に、糖尿病患者さんへのSMBG導入や、生活・食事・服薬指導などを任せていただけることになりました。
しかし。糖尿病患者さんの多くは2型糖尿病の方でした。「自身が1型糖尿病である」というだけで「患者さんへの対応は問題ない」と思っていた自分が、実は一番「糖尿病というものに偏見を持っていた」ということを認識しました。
「食事がしっかりしていないから」「運動をしていないから」「暴飲暴食したから」…。そんな非医療者が持っているイメージを、2型糖尿病の患者さんに持ってしまっていた自分に気がつきました。これでは、以前自分が「いやだ」と思っていた医療者と同じではないか、と。
もっとしっかりと、「糖尿病」というものについて知る必要がある。いや、知らなければいけない。患者さんにためにも、自分のためにも。そう思い、糖尿病専門クリニックである現在の職場に移動して、検査の視点からも、患者の視点からも「糖尿病」を勉強し、患者さんとふれあい、思い至った気持ちが、「患者さんの数だけ、患者さんの思いがある」ということでした。
誰もが、糖尿病になりたくてなったわけではない。同じことをしていても、糖尿病にならない人はいるのに何故自分だけが。こんな病気を持ったばかりに、何故理不尽な思いをしなければならないのか。もっと自由に飲んだり食べたりしたい。…いろいろな思いを、本当に患者さんひとりひとりが、それぞれの思いを心に秘めていて、それを表に出せなかったり、自分の「患者」としてのスタンスを否定されてきたり、いろいろな経験をしている患者さんがいらっしゃいます。そこに一番思いを馳せなければいけないのだと感じました。

これからの臨床検査技師に期待すること

現在のところ、糖尿病医療、特に患者さんに直接関わることが、他の医療職より圧倒的に少ない臨床検査技師ではありますが、最近ではisCGMや、施設によってはSAPの導入・解析などにも参画できている施設も出てきました。それは臨床検査技師としてとても喜ばしいことですし、糖尿病医療に携わる第一歩と捉えています。しかし、そこから先、継続的に患者さんと関わることがなかなかできないことが、私個人として憂いてることです。臨床検査技師も検査室の中で、データとにらみ合っている時代ではありません。先述したように、せっかくisCGMなどの導入に参加できたのならば、それをきっかけとしてもっと「患者さんと触れあえる」機会を増やしてほしいと思います。そして、「糖尿病患者さん」にもっと興味を持ってほしいと思います。
その「機会」は、待っていても向こうからは来てくれません。所属している医療機関の患者会や、患者さん向け講習会などがあれば、そこに顔を出してみるなど、自身が能動的になる必要があります。
患者さんとの触れあいは、「信頼関係」の構築にも非常に重要だと思います。見知らぬ医療者にいきなり「あなたのことを知りたいです」といっても、答えてはもらえませんよね?(私だったら引きます)
採血室の中でも、病院の廊下でも、「○○さん、こんにちは!」を毎月続けるだけで、患者さんの中には「あ、この人はいつも声をかけてくれる人だ」という「信頼の芽」が芽生えます。それを重ねていくうちに、自然と会話は生まれていきます。
病院内の仕事が忙しいとは思いますが、そんな状況を作ることが、患者さんに「他にも話ができる人がここにいる」と思っていただけるかもしれませんし、患者さんにとって相談や他愛もない話ができる場所が増えることで、何かが変わってくるかもしれません。
そんな役割を、臨床検査技師ができるようになればいいなと思っています。

更新:2023年5月25日

※所属は掲載当時のものです

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