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それぞれのストーリー

中嶋 千晶(Chiaki Nakajima)

中嶋 千晶(Chiaki Nakajima)

―「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」発表を受けて思うこと―

所属

なかじまちあき内科クリニック
中嶋へルスケアオフィス(労働衛生コンサルタント)

1日のスケジュール:

起床は7時前後、お弁当の準備をしながら必ず朝食はとり、8時半に家を出て、郊外の自宅から都心部のクリニックまでの通勤に片道1時間かかります。外来業務は、週3日は夜診が19時まであり、帰宅は22時前後です。火曜日の午後、木曜日は、現在は6社の嘱託産業医として、企業に出向きますが、18時には終わりますので、夜は研究会参加や食事会、家事をこなすことができます。日曜日は原則オフですが、日本体育協会公認スポーツドクター、大阪体育協会理事として、時々、マラソン医務や国体に帯同しますが、ドーピングコントロールオフィサーをしていた時よりは楽になりました。

糖尿病を専攻した理由:

大阪市立大学卒業後、第2内科に入局させていただきました。当時の 和田 正久 教授は大学にありながら往診をすすめられ、患者の背景に留意するよう教わりました。昭和43年当時の教室の方針についてのメモの中で、すでにチーム医療を掲げられるとともに、「Plan Do Check Action」(今でこそ産業保健の世界では常識ですが)の理念についてもふれておられ、先見の明がおありでした。研修医を終了後、大学院に進みましたが、素晴らしい恩師がたくさんおられた糖尿病グループで勉強する機会をいただき、1型糖尿病の治療に関わることとなりました。ポンプ治療が普及しつつある現在、隔世の感がありますが、当時は安定した遅効型インスリンがなく、微調整が効きにくいインスリン治療に合わせて、社会生活を工夫するサポートと、すでに合併症の出来上がった患者さんを診るのではなく、合併症を出さない様にしたいと思って、大学院が修了して糖尿病専門医を取得後、産業保健の道を歩むことになりました。

キャリア:

様々なワークライフバランスのあることをご紹介するためにご推薦を受けました。少し長くなりますが、産業保健についてご参考になれば幸甚です。

おりしも労働安全衛生法が改正されて、有害業務管理から生活習慣病対策に方向転換しつつあった産業保健現場では、予防医学の担い手が必要とされましたが、従業員の健康増進のためには、医師のみならず、産業看護職、栄養士、運動指導者、心理相談員との連携が必要で、糖尿病療養に欠かせないチーム医療とまさに同じでした。
嘱託産業医であれば、決められたスケジュールをこなせばよいので時間管理もしやすく、家庭と仕事の両立も楽ですが、継続的な関わりを持ちたいと考え、労働衛生コンサルタント試験を受けて、専属産業医となりました。

専属産業医の10年間(2社を経験)では、組織についての知識や、企業の協力を得るための方策等社会学を学ぶことができました。ちょうど安全配慮義務や、メンタルヘルス対策、過重労働対策が重点課題となり、個別対応のみでは限界があり組織への対応が求められる時代になっていたこともあり、生活習慣病対策においても、企画立案、実行後の評価検証が重要であることを学ぶよい機会でした。

嘱託産業医の時とは異なり、国内・海外出張もあり、実業団チームのスポーツ医学の仕事もこなしましたが、年間スケジュールで動きますので、時間管理がしやすく、1年弱の療養期間ではありましたが、自宅で家族とともに母を看取ることができました。

その後、再度個別対応を大切にしたいと思い、労働衛生コンサルタント事務所を開設し、企画立案もこなす嘱託産業医業務と共に、3年後には生活習慣指導も可能なクリニックを開設し、再びCSII治療も含めて、1型患者さんをはじめとした働く世代の診療に関わるようになりました。

なかじまちあき内科クリニック

恩師の藤井暁先生が、「診療に当たっては『理にかなった医学的根拠に基づくこと』は当然としても、患者さんの社会的、家族的背景は無論のこと、『個』を重視した医療となると、日頃から患者さんの人生観や死生観への、一定の理解も求められるべきであろう」とのメッセージを残してくださいましたが、産業保健を経験したことで、患者さんの社会的な背景や人生観を理解しやすくなったと思います。

メッセージ:

― チーム医療の広がり ―

2016年2月23日にいよいよ「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が厚生労働省より公表され、対象疾病はがんにとどまらず、脳卒中、心疾患、肝炎と共に糖尿病も含まれています。糖尿病重症化予防の施策が進んでいますが、合併症が進行した患者さんのケアとともに、合併症を予防するための教育も重要と感じています。健康診断で糖尿病が強く疑われても、50歳未満では約4割しか継続治療を受けていない現状では、「糖尿病受診中断対策包括ガイド」で提言されているように、産業医や健康管理部門との連携が重要と思われます。

従業員の個別面談を実施していると、適切な医療や療養支援を受けておられない人が多いことを残念に思います。糖尿病対策推進としての連携は、病院と診療所のみならず、産業保健も重要です。従業員の健康管理に関わる衛生管理者や、産業看護職対象の教育を中央労働災害防止協会、産業保健推進センターで担当していますが、広い意味でのチーム医療の一員となってもらえるよう、糖尿病対策についても必ずふれるようにしています。

― 行動変容支援 ―

また、健康診断事後措置として実施する保健指導は、糖尿病療養指導で欠かせない行動変容支援と同じですので、違和感がありませんし、仕事も含めて生活習慣を聞き取るのは、女性糖尿病医に適していると思います。
さらに、昨年導入されたストレスチェック制度をふまえ、産業保健ではメンタルヘルス対策を避けて通れませんが、糖尿病臨床では心理面のアプローチも大切で、専門的な治療は心療内科にお願いするとして、ストレスの気付きへの支援は糖尿病臨床にも役に立ちます。

― ワークライフバランス ―

「専門医実態調査アンケート」の中で、少数ですが、企業お勤めの先生は全員が子供ありとお答えでした。特に大企業では、有給休暇もしっかりとれますし、産休・育休制度は整っていますので、上手に育児と両立されている先生がたくさんおられます。 臨床から離れてしまうとご心配される先生方も多いかもしれませんが、私は大阪糖尿病協会顧問医会に入らせていただき、種々の患者会支援活動に携わることで専属産業医の時も糖尿病の勉強を続けてきました。現在も企業内診療所や産業医の先生方が多数所属されています。

多くの先生方に支えていただいて、無理をせず、ライフステージに合わせながら、糖尿病を持つ人生に医療のみならず社会的にも寄り添うことができる仕事が続けられることをとてもありがたく思っています。合併症を予防するために、継続して通院していただけるよう、女性らしい気配りと、趣味を活かして、フラワーアレンジメントで明るい待合室で、これからも患者さんをお迎えしたいと思います。

更新:2016年3月17日

※所属は掲載当時のものです

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