The Japan Diabetes Society

JapaneseEnglish
一般の方へ

第61回 年次学術集会

第61回 年次学術集会

(2018年 5月24日 - 26日)

シンポジウム 20 :
甦れβ細胞よ! ~女性研究者が糖尿病を克服する~

2018年 5月25日(金) 14:20 – 17:20 (JPタワー 4F: ホール1+2 [第16会場]:東京)
■ 座長:
 植木 浩二郎 (国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター)
 成瀬 桂子 (愛知学院大学 歯学部内科学講座)
 
■ 講演:
The changing beta cell
Susan Bonner Weir (Harvard Medical School/Joslin Diabetes Center)
ヒト iPS 細胞から膵臓β細胞への分化誘導の技術開発
粂 昭苑 (東京工業大学生命理工学院)
アクティブゾーンタンパク質ELKSのインスリン分泌における役割
今泉 美佳 (杏林大学医学部生化学)
蛍光技術を活用した生理活性物質放出機構の解析
高橋 倫子 (北里大学医学部生理学)
膵β細胞からα細胞への変換メカニズム
小谷 紀子 (慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)
 
■ 総合討論: 「Women, be ambitious ! 」
テーマ1: 女性研究者として研究を続け、キャリアップするために、何が重要か
テーマ2: 女性研究者を育てるために、重要なこと
以下、総合討論(座長、演者 5名)の書き起こしを掲載する
植木 浩二郎 先生、成瀬 桂子 先生
座長: 植木 浩二郎 先生(左)、成瀬 桂子 先生(右)
Susan Bonner Weir 先生
Susan Bonner Weir 先生
粂 昭苑 先生
粂 昭苑 先生
今泉 美佳 先生
今泉 美佳 先生
高橋 倫子 先生
高橋 倫子 先生
小谷 紀子 先生
小谷 紀子 先生

成瀬: このシンポジウムは、「女性糖尿病医をpromoteする委員会」との合同開催となっております。総合討論といたしましては、”Women be ambitious!” というタイトルで、2つのテーマについて行いたいと思います。本日は最先端の研究をされている先生方にお集まりいただきましたので、どうしたら先生方のようになれるのかということをぜひお伺いしていきたいと思っております。
テーマ1としましては、「女性研究者として自らが研究を続けてキャリアアップするために何が重要なのか」について、テーマ2としましては、今日は男性の先生方にも多く来ていただいていますが、「ボスとして女性研究者を育てるために何が重要と思われるか」ということをお伺いしていきたいと思います。
それではBonner-Weir先生から、どのようにしたら研究を続けてキャリアをステップアップできるか、女性研究者にとって何が重要かをお願いします。

Bonner-Weir: 難しいと思います。男性でも女性でも、独立して研究者としての道を始めるのは簡単なことではありません。それでも、女性のほうにより困難がつきまとうと思います。ロールモデルが限られていると思うので。ですから、より頑張って仕事を続けていかなければいけない。そして最終的には、メンターに出会ってサポートを得ることが必要になってくると思います。

粂: 先ほどの講演の中でも少し話をさせていたただきましたけれども、やはり諦めないことですね。少しでも続けていくことが大事なのかなと思います。特に、子どもがいた場合、時間的にも制限がある中で、少しずつでも続けられると、いつかは何かにつなげられるのではないかと思います。

総合討論「Women, be ambitious ! 」

今泉: 私も、今、粂先生がおっしゃったように、研究への情熱というのが最重要で、好きならばやり続けるのが大事だと思います。
研究を続けてキャリアアップするために、私が今大事に思っているのは2つあります。1つは、自分の真価、自分にしかできない価値が大事なのではないかと思っています。つまり、オリジナリティーがある仕事を持っているかどうかというのが、キャリアアップにはすごく大事になるかなと思います。こんなことを言って自分はどうなのかと言われるとすごく恥ずかしいのですけれども、そう思っています。
それから、Bonner-Weir先生もメンターが大事とおっしゃっていましたけど、信頼関係を築いている人が周りにいるかどうかというのが、本当に大切だと思っています。研究も大学での仕事も1人でできないことが多いので、信頼関係を築いている人が周りにいるのなら、今ある信頼関係を大事にする。ない場合は、信頼関係を築いていく努力が必要だと思っています。
若手女性研究者は頑張りながらも色々と悩み深い日々を送っていると思いますが、諦めずに是非研究を継続していただきたいと思います。

高橋: 今、先生方が発言されたことに全て同意をいたします。その他で付け加えるといたしますと、やはり研究を続けていくための環境を整える努力を自分からしていくということ。助けを受ける必要がある場合には、その地域ですとか、勤務先で提供されている支援についての情報を集めて、また、似た境遇の女性研究者に話を聞いていくことが重要かと思います。
それから、これは今泉先生ともつながりますが、やはり研究は1人ではできず、ネットワーク、人とのつながりが重要になってまいりますので、こうした研究者のネットワークに自分からも参加していく。その中で、自分のオリジナリティーがあると、やはりそこで意味のあるコミュニケーションができるかと思いますので、自分の強みですとか、オリジナリティーを大切にした研究を進めていくことが重要かと思っております。

小谷: もう全てそのとおりだと思います。やはり興味を持つこと、好きであること、やめないこと。女性だからというわけでは全くないと思いますが、やはり女性はライフイベントがいろいろありますので、やめる理由となるものが身近にたくさんありますが、やめるより前に、続けてやってみるというのが一番大事だと感じています。そのためには、やはり周り、それは家族を含めて、同僚、あとは指導してくれる先生、メンターというのが欠かせないと実感しています。

成瀬: ありがとうございました。皆さま、一生懸命仕事をすることはもちろん、続けること、そしてオリジナリティーを持って、ネットワークも大切に、信頼関係も大切にということでキーワードが出てきたように思います。
続けることを皆さん言われましたが、一方で私ども、「女性糖尿病医をpromoteする委員会」では、産休・育休の支援も期待されております。育児休業というものに関してどう考えられているか、ご自身はどのくらい休まれたのかということをお伺いしたいと思いますけれども、いかがでしょうか。

Bonner-Weir: 時代は変わっていると思います。昔、私の子どもが小さかったとき、あの時代は本当にそういった女性が少なかったわけです。サイエンスに関わっている、そして糖尿病の研究、他の科学の分野もそうだったと思うのですが、科学の分野に限らず働いている女性というのが全般的に少なかったと思います。
今は時代が様変わりしていると思いますが、あの時代にさかのぼってみますと、メンターが大きな違いをもたらしてくれると思います。今日においても、非常にまれだと思いますが、私のメンターは1歳の子供のいる私をハーフタイムのポスドクとして半分の時間で働いていいという配慮をしてくれました。非常にまれでした。でも、価値があったと思います。私は非常に効率よく、能率を上げて仕事をすることができたからです。
ですから、私はメンターの考え方一つで大きく変わると思います。柔軟で、非常に協力的で、そしてこの仕事がやりやすくできるようにしてくださるメンターに恵まれるということが重要であると思います。

成瀬: メンターがとても重要というわけですね。

Bonner-Weir: そうです。メンターは非常に重要です。そして、メンターは1人でなくてもいいわけです。上司はいても、他の周りの人たちが、もしかすると同僚の人たちがメンターになるということもあると思います。サポートを提供し、そして、どう研究を進めたらいいのか助言をくれたりすることがあると思います。さまざまなやりくりしなければいけないことについて、助言をくださる人もいらっしゃると思います。

粂: 私もBonner-Weir先生と同じように、メンターが非常に大事です。自分自身はといえば、当時のメンターの先生が非常にサポーティブでして、研究補助員を雇用していただいたことが、とても助かりました。
その恩返しというわけではありませんが、男女共同参画活動として、当時、分子生物学会の男女共同参画のワーキンググループが提言を取り纏め内閣府などにも提出し、最終的に、科学振興調整費として男女共同参画の事業の立ち上げに繋がりました。その活動に参画しました。私自身が、研究補助員を雇用していただいた経験があったので、そのことも盛り込んで、インセンティブとして、そういうサポートを機関ができるような形を整えました。実際、私が熊本大学の発生医学研究所に在職したときに、他の先生の協力も得て、男女共同参画の事業として、子どもを持つ女性研究者が申請すれば、そういったサポートの資金を研究室に支給するシステムが出来上がりました。そのような形で、とにかく周りからのサポートが得られることがとても大事だと思います。

総合討論「Women, be ambitious ! 」

今泉: 私も先生方がおっしゃったように、メンターの理解が非常にあって。なので、うまく時間調整を許してもらったなというのが正直なところです。今は以前よりも保育園になかなか入れないという方の話をよく聞きます。それで研究を中断してしまった人も見ていますので、そういうのはやはり何とかしなくてはいけないと思っております。
私は生化学会の男女共同参画委員として男女共同参画学協会連絡会という90位の自然科学系の学会が加盟している会の活動に参加しています。その学協会連絡会を通して、若い女性研究者のために、政府に提言していく活動にも参加しなければと、今思っているところです。

高橋: 育児支援の問題は非常に重要な問題だと思っております。私、自分自身は公的な保育園に入れていただくことができたのですけれども、留学生であるとか大学院生の立場で研究を続けている場合には入りにくいこともありますので、可能であればそれぞれの研究所、あるいは大学でそうした育児支援を行う姿勢、またはハードを立ち上げていくことが必要かと考えております。

小谷: 私が産休、育児休暇を取ったのは、製薬会社で勤務していたときの開発部門だったんですけど、やはり企業は安心して休みを取って、復帰後もきちんと自分の場所がある。その場所がなくなることを心配する人は、多分今はもう誰もいないと思うんです。かなりシステムがしっかりできています。
やはり研究所というのは、そうはなかなかうまくいかないんですけれども、先ほど粂先生のスライドにもありましたけど、研究補助員を付けてあげるとか。あと、われわれのところでもあるんですけれども、先ほど高橋先生もおっしゃっていたとおり、大学院生になった瞬間に保育園に入る順番というのはすごく後回しにされてしまうので入れない。なので、やはり研究室、そういう公的機関の保育園をつくるとか、そういう何らかの予算を付けていただくというのがやはり重要ではないかと思います。

総合討論「Women, be ambitious ! 」

植木: この中では多分お二人がご主人と同じ職場で働いていると思うんですけれども、ゴードン先生はとてもいいドクターで科学者だと思いますが、今ゴードン先生は東京から遠く離れたボストンにいらっしゃるということで、本音を話してください。彼は本当にいい伴侶なのでしょうか。ちゃんとサポートしてくれていますか。

Bonner-Weir: もちろんです。実際、私たちの子どもが産まれる前、結婚したてのころ、私はきちんと伝えました。毎日きちんと食事を作ったり、そしてお茶椀も洗わないといけない。実際には私の方が料理が上手だったので、私が料理を作ることが多く、彼は食器を洗ってくれました。いろいろな親がいると思いますが、当時の私の親は「えっ、彼が食器を洗うの?」と言っていました。でも、何かこれまでと変わったことをやろうとしたら、そういったことは経験しないと駄目だと思います。

植木: 高橋倫子先生のご主人でいらっしゃる河西教授はサポーティブだったでしょうか。それとも、先生が相当頑張られたのでしょうか。

高橋: 少なくとも研究におきましては、大変サポーティブであったと感謝をしております。そして、この件に関しましては、実は私は、私事で恐縮ですけども、子どもが9カ月のときに愛知県の岡崎市の研究室に移ってまいりまして、それは主人の転勤に伴うものです。研究者の場合には、必ずしも1つの大学、あるいは研究所に長くいることは難しく、このように県を越えて、または自分の生まれ育った地域を越えて移ることがありますので、そうした面でも、何か女性支援というものが考えていければいいのではないかと考えております。

成瀬: どうもありがとうございました。それでは2番目のテーマに移りたいと思います。もう先生方のお話の中でもかなり出てまいりましたが、今日は幸いなことに男性のメンターの先生方もたくさん残ってくださっていますので、ぜひ演者の先生方からメンターの先生方に、女性研究者を育てるために何が重要かということをお一人ずつお願いしたいと思います。Bonner-Weir先生からお願いしてもよろしいですか。

Bonner-Weir: 女性研究者を上司として育てるために何が重要なのでしょうか。上司だけではなく、女性の研究者がこのような発表の機会を壇上でもらうことで社会的な認知を高めるということが大事だと思います。多くの学会においては、均等ではなかったとしても、積極的に女性が均等に発表されるように努力されていることもあります。 メンターあるいは学会が能動的にそのような努力を行うことができると思います。そして、前にも言ったと思うのですが、柔軟性とそれからサポートが重要になってくると思います。トレーニング中の若手研究者の人たちにそういったものが提供されるべきだと思います。

粂: 研究室レベルでは、公的な用務、ミーティングなどはなるべく普通の勤務時間帯に行う、夜や土日には行わないということが重要です。もちろん個人の都合で私たちも培養などは夜中や土日に実験することが多いですけれども、公的なミーティングなど、半強制的な行事はできるだけ平日の、勤務時間内に行うようにしております。
あとは、Susan先生が言われたように、いろいろチャレンジさせる、任せることが非常に大事なのではないかと考えております。

今泉: 子育てなど時間制限の中でも、継続して研究する機会、環境の提供が大事と考えます。
それから、少し話がそれてしまうかも知れないですが、若い女性研究者を増やし、育てる為にはリーダーとして自分たちも魅力的なロールモデルでないといけない、その努力も大切というのを感じます。そういうロールモデルが増えれば自分もそのような研究者になりたいと思う若い女性研究者が増え、育つのではないかと考えます。

高橋: 女性の場合には、時間的な制約が強いことがありますが、しかしそれでも研究するチャンスを与えていただきたいと思っています。ある程度時間がかかっても良いようなオリジナリティーのある研究テーマを提供していくことが重要ではないかと考えております。
また、研究を続ける上では、ある程度グラントを取っていくことも非常に重要ですし、それを機会に自分の研究の方向性とかを見直す機会になりますので、そういった機会に応募するように、上に立つ人、メンターが後押しをしてあげる、そういったことも重要かと思っております。

小谷: やはり周りを見ていますと、ライフイベントがあって中断すると、中断=中止になっているケースが非常に多いので、もう1回再スタートできる場を提供していただきたいと思います。話し合えば、ひょっとしたら細々でも続けられる道があるかもしれないのですけれども、多くの場合、多分駄目だなと、ご本人の中でピリオドを打ってしまって辞めてしまうというケースもたくさんありますので。上の先生方とそういう話が常にできるような、教授室のドアは常に開けていただけるような、そういう環境をつくっていただけたらいいなと思います。

成瀬: どうもありがとうございました。男女関係なく、機会を与えていただくということが非常に大事ではないかということだと思います。

植木: 最後まで、このセッションにご参加いただきましてありがとうございました。お聞きになっていただいて分かりますように、今日ご講演いただいた先生方はいずれも素晴らしい研究をされておりまして、糖尿病を治癒させるということがこのような研究者によって必ずや近い将来に成就できるのではないかという思いをまた新たにいたしました。
また、女性の研究者の方々が今後発展していくためには、最後に少し高橋先生もおっしゃいましたけれども、今のグラントのシステムが3年とか、極めて短いタームで成果を求められるということを考えると、ノックアウトマウスなんかも解析だけでも5年以上かかってしまいますので、もっと長い形のサポートがないと、女性研究者も育ってこないのかなという思いも新たにいたしました。そういうことに関しても、糖尿病学会も政府等には公的資金をもう少しフレキシブルに使えるようにということも要望していくことも大事なのではないかと思いました。
今後、ここにいらっしゃる先生方を中心にして、β細胞の研究が発展して、近い将来、糖尿病が克服される日が必ずや来るということを祈念して、このセッションを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

植木 浩二郎 先生、成瀬 桂子 先生

更新:2018年9月10日